Image credit: Andrej Lišakov
「ダークパターンとは何か?」
多くの人が最初に抱く疑問だと思います。
ダークパターンとは、ユーザーの意思決定や行動選択を意図的に操る、ソフトウェアの操作的または欺瞞的なトリックのことを指します。例えば、クリックすると「はい」になるボタンが、配置や色、言葉遣いによって「いいえ」と表示されているように見える場合、多くのユーザーは恐らく引っかかってしまうでしょう。
ダークパターンの言葉の由来は、ある問題に対する共通で使い回しが可能な解決策のことを指す「デザインパターン」が元となっています。また、「アンチパターン」と呼ばれるものもあります。
2010年、私はこのパターンには、意図的な欺瞞と操作に根ざした、いくつかの種類に分けられることに気づき、このパターンを「ダークパターン」と名付けました。この言葉には、悪質で明るみに出ず、特定しにくいという意味が込められています。
そのため人は意図せずして、物を買ったり、共有したり、法的条件に合意してしまうことがあります。また、難しい仕組みになっているため、やりたいことがうまくいかないこともあります。
例えば、プレミアム会員を解約しようとすると、勤務時間中に電話をかけなければならず、担当者に10分間解約を思いとどまるよう説得された後にようやく解約することができる。といった具合です。ノーベル賞受賞者のリチャード・ターラーは、これを「ヘドロのようなもの」と呼んでいます。行動を妨げる力が強く、しつこい性質を持つダークパターンによって人々は疲弊し、諦めてしまいます。
もうひとつ、認知バイアスを利用して人々に行動させる方法もあげられます。例えば、「今、あなたと同じものを見ている人がいますよ」というWeb上の情報は、社会的証明バイアスを利用しています。売り切れ間近の商品であれば、希少性バイアスを利用する。割引が表示されていれば、アンカリングというバイアスが働きます。
もちろんすべてが真実であれば、それは正当なマーケティングであり、実際これらは買い物客にとっては有益な情報です。しかし、そのうちの一つでも嘘であれば、それはダーク・パターンとなります。
問題は、言葉が非常に曖昧であること。もしも、小売業者がある商品の在庫が少ないと言っているのに、外にまだ荷を降ろしていないトレーラーがあるとしたら、本当に在庫は少ないと言えるのでしょうか?
トレーラーはまだ到着していないが、駐車場に入ろうとしている場合は?
すでに荷下ろしされているが、店長がまだ領収書にサインしていない場合は?
このように人間の言語というのは、物事をあいまいに定義するのに非常に都合が良いのです。
ダークパターンの手法には、応用心理学、ABテスト、ユーザーインターフェースデザインが組み合わされており、これらの分野は急速に発展しています。例えば20年前を振り返ってみると、このような知識は一部の特権階級しか知りませんでした。それが今では当たり前になっています。
もう後戻りはできません。
2010年に初めてダークパターンに関わったとき、私はとても甘く考えていました。ダークパターンを使っている企業の面目をつぶし、デザイナーに倫理規範を守るよう促すことで根絶できると考えていたのです。しかし、今私たちがここにいるということは、そのやり方がうまくいかなかったということです。その理由のひとつとして、ダークパターンは労力を要さずとも利益を得ることができる上に、インパクトも大きく、作るのも簡単です。
具体的な例を挙げましょう。Blake et al, 2020の「Price Salience and Product Choice」という研究論文があります。この論文では、複数の研究者が、あるチケット販売サイトと共同で、隠れた手数料と前払い手数料の効果を検証しました。この実験には、数百万人のユーザーが参加しました。おそらく、これまで発表されたダークパターンテストの中で最大のものでしょう。
その検証の結果、事前にチケットの料金が表示されなかったユーザーは、約21%多くお金を支払い、購入を完了する可能性が14%高かったのです。
この結果は非常に大きなインパクトがあります。もしあなたがビジネスを営んでいて、とあるボタンを押すことで顧客に21%多く消費させることができるとしたらどうでしょう。もしかすると、罰金をとられてしまう可能性もあるかもしれません。しかし、その罰金の額は、ボタンを押すことによって得られるお金よりも少ないと想像してみてください。当然、あなたはボタンを押すでしょう。
これがダークパターンの存在理由です。効果的であり、利益をもたらします。
もちろん、私たちが今日ここにいるのは、結果的にダークパターンは害をもたらす存在となり、ユーザーが意図せずにお金を使ったり、物を共有したり、契約に縛られたりしてしまうからです。
最後に、古い話をしようと思います。おそらくあなたも聞いたことがあるのではないでしょうか。18世紀に生まれた「キングス・シリング」の古い神話です。
コインに触れる、という行為がイギリス海軍に入隊する拘束力のある契約とされた。そのため、海軍のスカウトマンが秘密裏に船のビールタンクにコインを入れた。そして、船員がビールを飲みコインが唇に触れると、拳銃を使って強制的に海軍へ入隊させたという。
Webサイトやアプリは、ユーザーに拳銃をむけるようなことがあってはならないのです。
ということで、Arunesh Mathurにバトンタッチします。彼には今世界中で使われているさまざまなダークパターンの例を紹介してもらうことにしましょう。
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