サイコロジカルプライシングとは?価格戦略の使い方と注意点を解説

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価格戦略とダークパターンの関係性とは?

ダークパターンはユーザーインターフェース(UI)※デザインの問題と捉えられがちですが、その要因は決してUIデザインによるものだけではありません。ダークパターンが広まった背景には、以前から存在する小売業の欺瞞(ぎまん)的な商慣習の関与が考えられます。

※ユーザインターフェースとは、ユーザーとコンピュータとが情報をやり取りをする際に接する、機器やソフトウェアの操作画面や操作方法を指します。

その代表例がサイコロジカルプライシング、つまり心理的価格付けです。

私たちはよく、98円や1999円のような価格に遭遇します。このような価格設定は、商品を心理的に安く見せる効果を持ち、100円や2000円といったきりのよい価格よりも消費者に対して心理的に安く感じさせる効果があります。この種の価格設定は違法ではないため、事業者も上手く活用していますし、消費者も通常、特に違和感なくこれを受け入れています。

画像引用元:comtetera「The Power of Psychological Pricing

ダークパターンが生まれた背景については、こちらの記事でも紹介しています。

ダークパターンの背後に潜む要因と目的

ダークパターンの源流ともいわれるサイコロジカルプライシングとは

知覚価格、心理的価格設定とも呼ばれるサイコロジカルプライシング(Psychological pricing)は、消費者の考え方や行動を利用した心理的な価格戦術です。いくつかサイコロジカルプライシングの例をご紹介します。

端数価格

端数価格(サフィックスプライシング)とは、商品やサービスの販売価格を丸数ではなく、わずかに下げた「99」や「98」といった端数で表示する価格戦略です。例えば、100円ではなく99円、2000円ではなく1999円といった形式です。この戦略の背景には、消費者の心理的効果を狙ったものがあります。端数価格は消費者にとって心理的に少なく感じられ、その結果、購買意欲を刺激するとされています。

端数価格戦略は、消費者の購買心理に働きかけることで、売上向上に寄与する可能性がありますが、その適用には商品の価格設定や市場の状況、ターゲットとする消費者層を考慮する必要があります。また、デジタル決済の普及に伴い、端数価格の心理的効果が変化する可能性もあるため、時代や市場の流れを見極めることが重要です。

画像引用元:Atlasmic Blog「サイコロジカル・プライシング。戦略と事例

価格からカンマを削除する

人は同じ数字であっても、カンマがある価格とない価格比較すると、カンマのある価格は潜在的に多数のパーツからなる数字だと思ってしまいます。つまり、カンマを取り除くだけで、数字が少しだけ物理的に短くなり、同時に、価格が少しだけ低く見えることがあります。ただし、顧客に価格について誤認識をさせないことが前提です。

画像引用元:Atlasmic Blog「サイコロジカル・プライシング。戦略と事例

名声価格

名声価格(プレステージプライシング、プレミアムプライシング)とは、商品やサービスの品質やブランドイメージを高めることを目的とし、市場の平均価格よりも高く設定された価格戦略のことを指します。

この戦略は、特に高級品や高品質な商品、独自の価値を持つサービスに対して適用されることが多く、商品自体の品質やブランドの持つ独特の価値、ステータスを消費者に訴えかけます。名声価格の設定により、消費者は高価格が高品質や高い社会的地位の象徴であると認識し、商品を購入することで満足感や優越感を得ることが期待されます。

<名声価格の事例>

1960-80年代に、セイコーが世界初のクオーツ腕時計を発売し、市場を支配しましたが、これによりスイスの時計産業は大打撃を受け、多くの企業が倒産し、就業者数が大幅に減少しました。しかし、スイスは高付加価値ブランドへの転換を図り、luxury brand化を進めることで世界トップに返り咲きました。一方、日本の時計産業は苦境に立たされています。

高価な時計ブランドは価格が高騰しても購入者にとって価値が変わらず、一方で、日本製の高品質で手頃な価格の時計も、その機能性だけで選ばれることは少なくなっています

段階価格

人々は一般的に、中間の価格帯の商品を選びがちです。低価格、標準価格、高価格の商品を提供することにより、消費者は極端に安いものでも高いものでもない、平均的な標準価格の商品を選択する傾向にあります。これは、フレーミング効果という心理的な現象を活用したものです。

日本では、価格設定を「松竹梅」というカテゴリーに分けることが一般的です。これを「松竹梅の法則」と呼び、その場合の購入割合はおおよそ、3:5:2にわかれると定説付けられています。

画像引用元:Atlasmic Blog「サイコロジカル・プライシング。戦略と事例

慣習価格

慣習価格とは、長期にわたり市場や業界内で一般的に受け入れられている価格のことです。この価格設定は、消費者の期待や過去の購買経験に基づいており、特定の商品やサービスに対する「通常価格」と見なされています。例えば、特定の地域や業界で長年にわたって確立された価格帯がある場合、それが慣習価格となり得ます。

慣習価格は、消費者が価格の基準として持つ心理的な安心感に影響を与え、商品やサービスの購入決定において重要な役割を果たします。また、新規参入企業が市場に参入する際の価格設定の参考になることもあります。

しかし、市場環境の変化や技術革新などにより、慣習価格が市場の現状に合わなくなることもあります。そのため、企業は常に市場の動向を分析し、慣習価格が現在の消費者の価値観や需要に適しているかを検討する必要があります。

<慣習価格の事例>

自動販売機で売られているジュースやタバコなどの価格は、消費者にとって今のところ身近なものであり、これらはすべて慣習価格の例です。嗜好性が高く、瞬間的な需要がある商品ほど慣習価格が当てはまるため、これらの商品の価格を下げて販売量を劇的に増やすことは困難です。

抱き合わせ価格

抱き合わせ価格(バンドル販売)とは、複数の商品やサービスを1つのパッケージとしてまとめ、一括の価格で販売する戦略のことを考えます。この販売方法は、消費者に対して価値のあるセットを提供します。また、消費者は複数の商品を一度に手に入れることができ、通常よりも低価格で購入できる場合が多いため、両方にメリットがあります。

抱き合わせ価格戦略を成功させるには、消費者が真に価値を感じるようなセットを構成し、適切な価格設定を行うことが重要です。また、市場や顧客のニーズを常に把握し、柔軟に対応する必要があります。

画像引用元:wedevs「Psychological Pricing Strategy For Marketers With Magic Numbers

均一価格

均一価格とは、販売する商品や提供するサービスが全て同一の価格である価格戦略のことを言います。この戦略は、顧客が価格を簡単に理解できるようにするため、または購入決定を迅速に行えるようにするために採用されます。

例えば、100円ショップでは、店内の商品が全て100円(税別)という均一価格で販売されています。このように、均一価格戦略を採用することで、店舗運営の簡素化や在庫管理の効率化も図れるため、小売業者にとってもメリットがあります。

しかし、均一価格では価格の柔軟性が失われるため、市場の変動や競合他社との価格競争に対応しにくくなる可能性があります。また、高品質や高コストの商品を取り扱う場合、利益率が低下するリスクもあります。均一価格戦略は、適切な市場や商品において効果を発揮しますが、採用する際にはそのメリットとデメリットを十分に検討することが重要です。

期間限定価格

期間限定価格は、商品やサービスを特定の期間だけ割引価格で提供する販売戦略です。この戦略の主な目的は、短期間での売上促進、在庫の迅速な回転、新商品の導入促進、または顧客の店舗への誘導を図ることにあります。期間限定価格は、消費者にとって「今買わなければ損をする」という緊急感を生み出し、購買意欲を高める効果があります。

期間限定価格戦略を成功させるためには、適切なタイミングと適正な割引率を選ぶことが重要です。また、プロモーションの期間が終了した後も顧客が継続して購入を検討するような戦略を併用することが望ましいです。例えば、優れた製品品質、優れたカスタマーサービス、またはリピーター向けの特別オファーなどがこれにあたります。

プライスライニング

プライスライニングは、商品やサービスを異なる価格帯で分類して販売する価格戦略のことです。この方法では、同じカテゴリーの商品をいくつかの価格レベルに分けて提供することで、様々な予算を持つ顧客層を広くカバーします。例えば、低価格版、中価格版、高価格版の3つの価格帯で商品を展開することが一般的です。

この価格戦略を成功させるには、市場調査を徹底し、顧客のニーズや消費者の価格設定を正確に把握することが重要です。また、各価格帯で商品の価値を提供することを明確にすることで、消費者が納得のいく選択ができるように求められます。

価格表記に関連するダークパターン

前述のサイコロジカルプライシングは顧客にとって極端な不利益が無ければ、現在では商慣習として受け入れられていることは冒頭でもお伝えしました。

しかしながら、顧客を混乱させ、騙すような価格設定はダークパターンとして認定されています。

価格比較の阻止

各商品間での価格比較を困難にすることを指しています。例えば、お菓子を買おうと思ったときに10個で500円と書かれているものと、500gで1,000円と書かれているものがあるなど、ベースとなる単位が異なることで料金の比較を難しくしているような場合が該当します。

こちらの記事でも詳しく解説しています。ダークパターン事例 賢い買い物を妨害する「価格比較の阻止」

また、ダークパターンには分類されていませんが、次のような表示は消費者を騙す意図があると言えます。例えば、フリマサイトで「99,999.9円」などの表記を見かけることがあります。このような価格表記は、悪質な出品者により、購入希望者に価格を誤認識させ購入させる意図があります。基本的には、消費者に誤認を与えない価格表示することはとても重要です。

さらに、ダークパターンではなくても分かりにくい価格表記はX(旧Twitter)でポストされることもあります。

 

日本における価格表示に関する規定

ここまで様々な価格表示について説明しました。次に日本における価格表示規制についてご紹介します。代表的な景品表示法の有利誤認の「二重価格」表示についてご説明します。

二重価格表示とは?

二重価格表示は、実際に商品が売られている価格とは異なる、もう一つの価格をウェブサイト、広告、または店頭の宣伝用資料に表示する手法です。こうして提示される価格を比較対照価格と称します。

例えば、「通常価格○○円を今日だけ△△円で!」というような表記がこれにあたります。ここで「通常価格○○円」というのが比較対照価格で、「今日だけ△△円」というのが実際の販売価格です。このような表示手法は、商品が通常時よりも価格が下がっているという点を際立たせ、消費者の購買意欲を高めることが目的です。

このような表示が真実に基づいていれば問題はありませんが、消費者が販売価格を誤って安いと捉えてしまうような不正確な比較対照価格を置くことは、景品表示法が規制する不当な表示とみなされ、違法とされるおそれがあります。

不当表示に該当する可能性がある二重価格表示

不当表示に該当する可能性がある二重価格表示とはどのようなものあるかご紹介します。

  • 同一ではない商品の価格を比較対照価格として表示する場合

異なる商品とは、ブランド、品質、サイズ、機能性などにおいて差異が見られるものを指します。例えば「エアコン」であっても、機能の違い、サイズの大小、製造年の新旧などによって価格が変わることは自然なことです。

価格が異なる商品を比較基準価格として用いることは、消費者が実際の販売価格を適正に判断できなくなるリスクがあります。消費者が実際の商品よりも価格が安くなっていると誤解することで、不正確な表示とみなされ、不当な表示として問題視されることがあります。

  • 実際と異なる価格やあいまいな価格を比較対照価格として表示する場合

二重価格表示において、比較として挙げられる価格は事実を根拠にしている必要があります。

実際に過去に一度も販売したことがない価格を「通常販売価格〇〇円」と表示したり、競業他社で販売実績のない価格を「〇〇社の販売価格△△円」と表示したりするなど、事実に基づかない価格を用いて消費者に安さを誤認させる表示は、不当表示と見なされる可能性があります。

また、比較価格に当店通常価格を表示するケースでは、その通常価格は直前8週間に4週間以上販売された価格であることが原則として必要です。

発売開始から8週間たたないうちにセールを開始する場合については、セール開始日前のすべての販売期間のうち、半分以上の期間において実際に販売していた価格であれば、「当店通常価格」などとして表示することが認められています。

ただし、セール開始より2週間以上前の通常価格表示であったり、その通常価格での販売期間が2週間に満たない場合など、例外的に認められない場合もありますので注意が必要です。さらに、将来の販売価格や希望小売価格などとの比較表示の考え方もありますので、適切な価格表示になるよう注意しましょう。

サイコロジカルプライシングが詐欺的にならないボーダーラインの見極めが必要

事業者がサイコロジカルプライシングを使用するメリットは、消費者の心理や行動に基づいて価格を設定するため、必要と供給のバランスを最適化、利益適切な価格設定により、消費者の購買を高め、売上を増加させることができる点です。

しかしながら、サイコロジカルプライシングは、消費者の心理や行動を利用して価格を設定するため、結果的に消費者を騙し、不当に購入に誘導したりする表示になってしまうと不当な表示や企業の評判を損なう可能性があります。サイコロジカルプライシングを適切に活用して、お客様と信頼関係を築きながら、商品を魅力的に表示し、販売していきましょう。

参考:ELITE Network「ユーザーインターフェースとは?

日経BP「ダークパターンはなぜ生まれるのか? 加速させる3つの要因と目的

free web hope「消費者心理をコントロールする7つの心理的価格設定とその事例」

Atlasmic Blog「サイコロジカル・プライシング。戦略と事例

企業法務の法律相談サービス「二重価格表示とは?事例をもとにわかりやすく解説

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