記事監修:南 保志
クチコミコンサルタント。テレビ東京WBSなどニュース番組でも引用される本音の口コミサイト みん評 創業メンバーの一人。10年以上にわたって口コミを分析し続けた知見を生かし、長期戦略に基づくプロダクトの改善、広告やマーケティングの改善をコンサルティングしている。執筆・監修記事はこちら。
編集:darkpatterns.jp編集部
「脱ダークパターン」に向け、ダークパターンについての事例や手法を中心に発信しています。
ウェブサイトを閲覧している際、あなたが信頼している専門家によるお墨付きを見たことはありませんか?
食事しようとした際に、レストランの外に行列ができているのを見て、そのレストランは評判が良いと思ったことはありませんか?
それらはソーシャルプルーフです。
しかし、こうしたソーシャルプルーフが、場合によってダークパターンの可能性があることをご存知でしょうか?
企業として企業イメージやインフルエンサーの信頼を守るため、また消費者として悪質なウェブサイトに騙されないために、ソーシャルプルーフのダークパターンを理解しておきましょう。
目次
ソーシャルプルーフとは?
ソーシャルプルーフとは、模範的な他の人が何かを支持すると、他の人々もそれを支持しやすくなる心理的な傾向を指します。
人々は好意を持ったインフルエンサー(もしくは、社会)に好かれるため、似た存在になるため、彼らに受け入れられるために、他の人々の行動や意見に合わせることがあります。
例として、近年活発になっているインフルエンサーなどを起用したPR活動があります。
企業が自社のブランドや製品・サービスを直接宣伝する代わりに、影響力のあるインフルエンサーに実際に製品やサービスを使用してもらい、それをSNSで宣伝してもらいます。そうすることで、フォロワーはもちろん潜在的な顧客にもリーチでき、認知度が向上する可能性があります。
他にも、HPに顧客の「口コミ」「レビュー」を掲載することで、顧客からの信頼を得て、商品・サービスの購入の後押しをする方法も主流となっています。
クチコミコンサルタント。 本音の口コミサイトみん評創業メンバー 南 保志
ユーザー視点で見ると、企業が一人称で自社を語ることは宣伝広告とイコールになるため、第三者からの利害関係のない口コミのほうが自然で信頼される情報発信であることは間違いありません。
インフルエンサーという存在は消費者と広告の中間とも言える存在で、これまでは報酬を支払ってもコントロールできなかった口コミが、報酬によってコントロールできるようになったことが一つの大きな変化と言えます。
これらのように、企業はソーシャルプルーフによる第三者の影響力を借りることで、潜在顧客を商品やサービス購入に導いています。
しかし、冒頭でもお伝えしたようにこうした表示は場合によってソーシャルプルーフのダークパターンになりかねません。
例えば、PR活動であることを表示せずに宣伝を行う「ステルスマーケティング」が最近では問題になっており、2023年10月1日からステマ規制が導入され、取り締まりが行われています。
ステルスマーケティングの規制についてはこちらもご覧ください。
ソーシャルプルーフの中のダークパターン
ソーシャルプルーフのダークパターンは、自分よりも周囲の判断が正しいと思い込む人間の心理を悪用し、消費者を誤導します。
そして、結果的にそのWEBサイトの信頼を失墜させます。
これは不正行為や欺瞞的な手法を用いて、ソーシャルプルーフを作り出すことで発生します。
<例>
- 実在しないインフルエンサーを演じるアカウントを作成し、商品・サービスに対して評価の高いレビューを投稿することで、製品が実際よりも人気があるかのように見せかける。(いわゆる「サクラ」の利用)
- 実際にはそのWEBページを他に誰も利用していないにもかかわらず、「現在3名のお客様が閲覧しています。」などと表示する。
クチコミコンサルタント。 本音の口コミサイトみん評創業メンバー 南 保志
ソーシャルプルーフのダークパターンを使用した結果
実際には存在しないユーザー:サクラによって高評価レビューを載せても、実際の商品品質のほうが劣っていたら、結果的には、信頼を裏切られた顧客によるネガティブレビューのほうが多くなってしまう恐れがあります。
また、偽りのレビューを載せることは、不当表示による景品表示法違反となりうる可能性があり、注意が必要です。
景品表示法とは?
「景品表示法」は、正式名称を「不当景品類及び不当表示防止法」といい、商品やサービスの品質、内容、価格等を偽って表示を行うことを規制する法律です。
過大な景品類の提供を防ぐために景品類の最高額を制限することなどにより、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べる環境を守る目的があります。
参考:消費者庁「景品表示法」
優良誤認表示
「優良誤認表示」とは、商品やサービスの品質・規格・内容に関して、実際のものよりも著しく優良であると誤認させる表示のことです。
合理的な根拠がない効果・性能の表示は優良誤認表示とみなされます。
有利誤認表示
「有利誤認表示」とは、商品やサービスの価格・取引条件などに関して、著しく価格を安く見せかけたり、取引条件を著しく有利に見せかけて実際のものより著しく得をしていると誤認させる表示のことです。
内閣総理大臣が指定する不当表示
優良誤認表示や有利誤認表示の他に、誤認されるおそれのある表示として内閣総理大臣により6つの告示が定められています。
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示
- 商品の原産国に関する不当な表示
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
- 不動産のおとり広告に関する表示
- おとり広告に関する表示
- 有料老人ホームに関する不当な表示
クチコミコンサルタント。 本音の口コミサイトみん評創業メンバー 南 保志
景品表示法上の問題はもちろんですが、偽装された高評価レビューをもとに商品購入してしまうと、実際にその商品品質は平均的なものだったとしても期待値とのギャップによる不満が生じます。
マーケティング担当者として見れば目先の数値はこれで改善されるかも知れませんが、長期的に見ればネガティブな影響のほうが大きいでしょう。実際に「みん評」では10年以上にわたって日々口コミを観測していますが、一度失った信頼を取り戻すには長い年月とコストがかかっています。
ソーシャルプルーフのダークパターンを避けるポイント5つ
ソーシャルプルーフのダークパターンを避けるために、以下のポイントに気を付けることが重要です。
レビューの透明性の確保
レビューや評価を掲載する場合、それが誰からのものかを明示し、偽りでないことを確認することが必要です。実在しない人物を使って偽の評価やコメントを生成しないようにしましょう。結果的に信頼性を損なうことになります。
フォロワーや評価の購入を避ける
インフルエンサーやSNSのフォロワー、いいねなどを購入することは、不正行為と見なされることが多いため、避けましょう。
透明な関係の明示
PR案件やスポンサーシップがある場合、企業とインフルエンサーの関係を明らかにし、消費者に知らせることが大切です。
広告の明示
PR案件やスポンサーシップに関連するコンテンツは広告として明示しましょう。消費者に対して、透明で誠実なコミュニケーションをとることが重要です。
SNSでのPR活動には企業名と共に下記のような「関係タグ」を使用しましょう。
#プロモーション、#PR、#宣伝、#広告
参考:WOM JAPAN「WOMJガイドライン 3.関係性の明示」
景品表示法の遵守
過度な誇大広告や誤解を招く表現を避け、景品表示法に準拠することが必要となります。
クチコミコンサルタント。 本音の口コミサイトみん評創業メンバー 南 保志
派手な広告を展開して業績を伸ばしている他社(会社)を見ると、これらダークパターンに当てはまる例が散見されると思います。そして、その多くは近い将来に行政処分を受けたり、顧客からの批判で炎上することになります。
こういったダークパターンの誘惑に駆られそうになったら、「なぜ私たちはこの事業をしているのか」という原点に立ち返ることをおすすめします。不正を行なう事業者は不当な利得を短期間で得て、問題が露呈したら事業を閉鎖して隠れてしまうつもりであり、顧客の幸せのために事業を営んでいるわけではありません。こういった事業者は同業他社ではなく、詐欺会社であり全く別世界の人たちであると認識しましょう。
まとめ
上記のようなポイントに気を付けることで、ソーシャルプルーフのダークパターンを回避し、消費者と企業の信頼を維持することができます。透明性と誠実さが、良好なビジネス実践の基盤です。販売する側も購入する側も、ソーシャルプルーフを理解し、上手に活用することで生活を豊かにできます。ソーシャルプルーフのダークパターンに気を付けながら、これからもSNSや口コミを活用していきましょう。
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