東京工業大学アスピレーショナル・コンピューティング・ラボの研究者たちが、論文「Linguistic Dead-Ends and Alphabet Soup: Finding Dark Patterns in Japanese Apps」において、日本の人気モバイルアプリに、悪意のあるインターフェースデザイン「ダークパターン」が、どれほど含まれているかの調査結果を発表しました。
この論文では、多くのダークパターンが発見され、さらに分析の過程で、新たな種類のダークパターンが明らかになったことが示されています。
目次
研究の内容と結果
この研究では、日本のモバイルアプリにおいて、ダークパターンの存在率とその種類について調査しました。
最初に、研究者たちは、App Storeから200本のアプリを選定しました。選定の際には、以下の3つの条件を満たすアプリを対象にしました。
・iOSプラットフォームで提供され、iPadで利用可能であること
・無料でダウンロードできること
・日本市場で人気があること
調査の結果、各アプリに平均して約3.9個のダークパターンが見つかりました。具体的には、36.5%のアプリには2個以下、46.5%のアプリには3〜6個程度、17%のアプリには7個以上のダークパターンがあったと報告されています。
報告されたダークパターンの例
今回の論文で、以下のダークパターンが見受けられたとの報告がありました。
・ユーザーの操作を中断させるために、ポップアップを表示する。
・Cookieなどが画面の一部に常時表示され、非表示にできない。
・商品購入時に、不要な中間通貨を購入するように促す。
・注文確定直前の画面で、あらかじめ表示されていない料金を請求する。
・アプリ内で、ログアウトやアカウント削除ができなくなる。
・選択肢が2つ以上あるが、提供者にとって有益な選択を目立たせるために、フォントやボタンの大きさ、位置、フレームなどを工夫する。
さらに今回、この調査の過程で「Linguistic Dead-End」(言語的行き詰まり)という、今まで知られていなかった、新しいタイプのダークパターンも発見されたとの報告がありました。
新しいクラスのダークパターン
今回報告された新しいクラスのダークパターンとは、「Linguistic Dead-End」(言語的行き詰まり)というもので、言語の使用に関連して、ユーザーが重要な機能を理解できない、あるいは理解が非常に困難になるデザインパターンのことを指します。今回調査した日本の200本のモバイルアプリのうち、33本に「Linguistic Dead-Ends(言語的行き詰まり)」が見つかりました。
Linguistic Dead-Endは、「Untranslation」(翻訳不能)と「Alphabet Soup」(アルファベットスープ)の2つに分かれます。
Untranslation(翻訳不能):アプリが現地語(日本語)で提供されているにもかかわらず、一部または全部が、ユーザーにとってなじみのない言語(日本語以外)で書かれているデザインパターンを指します。アプリ内の説明が日本語以外で書かれており、読み飛ばしや誤解を招く可能性があります。今回の調査では、少なくとも1つの「Untranslation」を含むアプリが、29本報告されています。
Alphabet Soup(アルファベットスープ):外国語の単語を現地(日本語)の文字や記号、数字で表現しているものの、意味が分からない状態を指します。たとえば、「1.5円」という表記は、日本円を意味していると認識はするものの、小数点が入っていることから他の通貨である可能性が考えられ、混乱を与えます。今回の調査では、少なくとも1つの「Alphabet Soup」(アルファベットスープ)を含むアプリが4本ありました。
興味深いことに、「Untranslation」(翻訳不能)と「Alphabet Soup」(アルファベットスープ)は異なる分布を示しています。特に「Untranslation」(翻訳不能)は、家族や友人と気軽にやり取りができるコミュニケーションカテゴリーで、最も多く見られました。これらの2種類のダークパターンが、同一のアプリ内で共起しないことから、それらは統一されたダークパターン戦略の一部として導入されたわけではなく、各々が言語的手法を利用して欺瞞(ぎまん)をしていることが伺えます。
研究結果から分かったこと
今回200本のアプリの中で、33本のアプリには「Linguistic Dead-End」(言語的行き詰まり)が見つかりました。これらのアプリは、米国、韓国、中国、イスラエル、フランス、スウェーデン、インドなど、多くの異なる国から提供されており、言語も多様です。
「Linguistic Dead-End」(言語的行き詰まり)が多い理由の一つは、海外製アプリが日本で人気で、広く使用されていることにあります。特にコミュニケーション系アプリは、海外から多く提供されており、逆にニュースやショッピングなどのカテゴリーでは、日本製アプリが支配的です。したがって、海外製アプリが主流となるカテゴリーにおいて、「Linguistic Dead-End」(言語的行き詰まり)がより多く見られる傾向がありました。
この結果から、アスピレーショナル・コンピューティング・ラボの研究者たちは、「Linguistic Dead-End」(言語的行き詰まり)を検出する方法と、システムを開発するための取り組みをはじめました。
まとめ
ダークパターンは、クリティカルコンピューティング(情報技術とコンピューターサイエンスの分野で、倫理や社会的影響を重要視し、コンピューティング技術を評価・分析するアプローチ)、および広範なインタラクションデザインにおいて、注目されるトピックとなっています。
今回の研究結果は、日本のアプリを事例として、ダークパターンが広範なスケールで存在することを示す証拠を提供しました。つまりそれは、私たちに新たなダークパターンの存在を知らしめさせ、さらに今後もまた新たなダークパターンが現れる可能性と、研究は今後も続いていくということを示しています。それに対して私たち自身としては、ダークパターンについて深く知り、常にアンテナを張り、油断せずに身を守っていくことが必要となってくるでしょう。
参考:ユーザーだます、悪意あるUI「ダークパターン」 日本のアプリでどのくらいあるか 東工大が調査
Linguistic Dead-Ends and Alphabet Soup: Finding Dark Patterns in Japanese Apps