EU消費者団体がSheinを告発、ダークパターン規制強化の引き金に

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EUが規制検討するダークパターン

SheinとTemuの事例から読み解く影響

2025年6月、欧州の消費者団体BEUC(欧州消費者同盟)は、急成長中のファストファッション通販サイト「Shein(シーイン)」を欧州委員会に告発しました。その理由は、同社がアプリやウェブサイト上で消費者を不当に誘導する「ダークパターン(消費者の意図しない選択をさせるデザイン)」を多用しているというものでした。

最近、欧州最大の消費者団体BEUC(European Consumer Organisation)は、オンラインファストファッション小売り大手のSheinが、ユーザーを煽る「ダークパターン」デザインを多用しているとして、欧州委員会に告発しました。代表的な手法としては、「今すぐ買わないとプロモーションが消える」というポップアップ、購入期限を促すカウントダウンタイマー、無限スクロール機能などが使われています。これにより、消費者が焦って購入を決定させられる場面が多く見られます。

さらに、アプリの通知頻度も異常で、あるスマートフォンには1日に12件もの通知が届くことが報告されており、これが消費者にとってプレッシャーとなり、意思決定を急がせる要因になっています。

 

BEUCは、Temuなどの競合も同様の手法を用いており、消費者行動を喚起することを目的としたこれらのインターフェイスは、EUにおいて「不正な営業手法」として規制対象に該当すると見なされています。EU加盟国の消費者団体がこの問題に注目しており、規制が強化される可能性が高まっています。

Sheinに対する集団提訴が意味すること

今回の苦情申立てには、フランス、ドイツ、スペインなど21カ国の25の消費者組織が連名で参加しています。BEUCは、EU全域でこうした企業のインターフェイスを調査対象に加えるよう、EU消費者保護ネットワークに働きかけており、今後は企業に対して不正な手法を排除するためのより厳格な監視体制が整えられる見通しです。

SheinやTemuは、短期間で大量消費を誘発するファストファッションモデルを取っており、これらのダークパターンによって売上が顕著に伸びているという指摘もあります。しかし、こうした手法は消費者の自主的な意思決定を阻害するものであり、消費者保護の観点から強く問題視されています。特にEU市場では、今後こうしたインターフェイス設計に対して厳しい法的規制がかけられる可能性が高まっています。

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Shein事例から学ぶ、EUで問題視されるUXの闇

EU規制の争点となったダークパターンとは、消費者の意思決定を意図的に操作するデザイン手法です。ユーザーが無意識に不利な選択をさせられるような、いわゆる「騙し」「強制感」を感じさせるようなUIが特徴です。これらの手法は、オンラインショッピングサイトやアプリで頻繁に見られ、ユーザーが自分の意志で行動した結果だと思わせながら、実は企業の利益を最優先にする設計が施されています。

以下では、Sheinで見られる代表的なダークパターンをさらに深堀して解説します。

1.知らぬ間に“購入モード”に──Roach Motel型(抜け出しにくい)

Sheinでは、「他の購入者がこれも買っています」というメッセージや、自動的にカートに追加されるオプションがよく見られます。消費者が購入を進める過程で、これらの追加オプションが気づかないうちにカートに入っていることがあり、最終的に余計な商品を購入してしまうことがあります。これはユーザーに不満を抱かせ、信頼を損なう原因になります。

例:

  • チェックアウト画面で追加されるオプション(例:保証プランや追加アイテム)。
  • 「他の購入者がこれも買っています」という表示が、追加の購入を促す場合。
You Might Like to Fill it With:他の購入者がこれも買っています
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2. “買わなきゃ損”の心理操作──タイムリミット演出が不当表示に?

Sheinでもよく使われる手法で、「今すぐ購入しないと割引が終了する」というメッセージとともにカウントダウンタイマーが表示されます。この手法はユーザーに焦りを与え、購入を促すプレッシャーを感じさせます。消費者がタイムリミットを意識して購入を急かされることがよくありますが、後でその割引が無効であったり、実際にプロモーションが延長されることがあるため、信頼を損なう原因になります。

例:「今すぐ購入しないと割引が終了します」というカウントダウンタイマー。

Sheinカウントダウンタイマー

3. エンドレスな購入導線──無限スクロールに潜む設計責任とは

Sheinの商品一覧ページや「おすすめ」セクションでは、無限スクロールがよく使われています。ユーザーがスクロールを続けることで次々と商品が表示され、「まだ見ていない情報があるかも」と感じさせ、消費者は次々とアイテムをクリックし続けてしまいます。しかし、選択肢が多すぎて最終的に何を選んでいいのか分からなくなり、購入を決定しにくくなることがあります。

例:商品一覧ページが無限に続き、ユーザーが終了するタイミングを見失うことがある。

Sheinアプリスクロール画面
Sheinアプリスクロール画面

4. 楽しさの裏にある設計意図──ゲーム要素がもたらす消費行動の誘導

Sheinの「Puppy Keep」では、仮想ペットの世話を通じてポイントを貯め、商品と交換する仕組みが用意されています。ゲームは毎日のログインや継続的な利用を前提に設計されており、消費者に「毎日来ないと損をする」と感じさせるプレッシャーを与えます。特典や報酬が日替わりで変動することで、習慣的なアプリ利用と衝動的な購入を誘導する構造になっています。Temuでも同様に、ゲーム形式の割引取得やポイント獲得が導入されており、これが消費者の行動を操作しているとして批判されています。

例:

  • 「毎日来ないと損をする」と感じさせるプレッシャーを与え、習慣的なアプリ利用と衝動的な購入を誘導する
Temuアプリ内ゲーム画面

 

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これらのダークパターンは、Sheinに見られる典型的な手法です。実際、SheinやTemuなどのプラットフォームでは、ユーザーの行動を誘導するために、これらのダークパターンを巧妙に活用しています。規制が強化される中で、これらの手法が消費者に与える影響や、それが企業の信頼性に与えるリスクについて理解しておくことが重要です。

EUによる規制強化により、ダークパターンが規制対象となるのは確実視されています。そのため、中小企業のECサイト運営者にとっては、自社のUIがダークパターンに該当するかどうかを確認し、早めに対策を講じることが重要です。ダークパターンチェックリストを参考に、自社サイトのUIを確認し、必要に応じた改善を検討してみましょう。

規制が進んでいく中で、ユーザーフレンドリーなUIへの改善は、EU市場での競争優位を保つための良い機会です。UI/UXの改善に役立つ手法や事例については、ビジネス向けコンテンツでご紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。

また、米国市場では税制や輸入規制の影響もユーザー離れに関わっています。EUでも類似の規制が導入される可能性があり、海外展開を考えている企業にとっては、話題の事例が学べるニュース一覧を参考に、先行企業の取り組みを学ぶことが役立ちます。

Sheinの事例は、具体的なダークパターンの手口と、それに対する規制の在り方を示す貴重な教訓です。

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EUが主導するダークパターン規制の強化は、今後、世界的な基準として広がる可能性があります。実際に米国でもAmazonが同様の問題で規制当局の調査を受けており、日本でも消費者庁を中心にデジタル上の表示方法や誘導手法への関心が高まっています。

特に、デザインやマーケティングにかかわる中小企業にとって、海外動向に無関心でいることは大きなリスクです。国内においても、将来的にガイドラインや規制が導入されることを見越し、今から準備を始めておくことが重要です。利用者の信頼を得ることは、検索評価やリピーター獲得にも直結するため、誠実なUX設計が競争力の源になると言えるでしょう。

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まとめ

シーインに対する欧州での告発は、単なる個別企業の問題ではなく、ダークパターンが国際的に規制の俎上に載せられつつある現状を象徴しています。とくにEUでは、UX設計の不誠実さが法的責任を問われる段階にあり、今後さらに世界的な潮流になる可能性があります。

中小企業にとってもこれは他人事ではありません。自社のUIやUXがユーザーの意思決定を不当に誘導していないかを改めて見直す必要があります。企業規模にかかわらず、「誠実でわかりやすい設計」が、今後の競争力と信頼構築の鍵となります。

 

出典:Consumer group accuses Shein of manipulating shoppers with ‘dark patterns’ (CBC Lite)

 

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