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「こっそりカゴに入れる」ダークパターンとは?
ハリー・ブリヌル氏は、2010年に「ダークパターン」という言葉を作ったユーザーエクスペリエンスの専門家です。ダークパターンとは、ウェブサイトやアプリが、購入や登録など、意図しない行動を取らせる手口です。
ハリー・ブリヌル氏は人を欺くようなデジタル手法に対する一般の認識を高めるために、darkpatterns.orgを運営しています。ダークパターンのサイトを12種類に分類しています。
この記事では、その中の1つであるこっそりカゴに入れる(スニーキング)について説明します。
ブリヌル氏は、こっそりカゴに入れる(スニーキング)を下記のように定義しております。
ユーザーのショッピングカートに勝手に追加アイテムを追加し、追加されたアイテムを「ボーナス」や「マストアイテム」と宣伝することがあります。ユーザーのデフォルト効果という認知バイアスを利用しており、背後のウェブサイトは、ユーザーがカートに追加した商品を継続して購入してくれることを期待しているのです。
引用元:https://arxiv.org/pdf/1907.07032.pdf?mod=article_inline(p.13)
商品が勝手に追加される「こっそりカゴに入れる」ダークパターンとは?
「こっそりカゴに入れる」というダークパターンを使う企業の真の目的は、より多くの商品を買ってもらうことです。特定の商品をカゴに入れると、その商品には有料オプションがセットになっていたり、付属品のように追加されたりします。また、初期値(デフォルト)で選択されていたり、ページが遷移するタイミングで追加されたりして、消費者に気づかれにくくなっています。
例えば、
・スマートフォンを購入しようと思い、商品をカートに入れて購入手続きを進めようとすると、同時に有料の保証延長プランが自動的にカートに追加されていた。
・友人にプレゼントを買おうと思い、1,000円の商品をカートに入れて購入手続きをしようとしたら、300円のメッセージカードも勝手にカートに入れられていた。
・ショッピングサイトで商品を買おうと思い、その商品をショッピングカートに入れて購入手続きを進めたところ、同時にショッピングサイトのメールの自動配信設定がいつの間にかチェックボックスに追加されていた。
その他、期間を指定して購入する商品では、商品をカートに入れる際などに、商品ページで紹介・表示されている期間が勝手に変更されてしまうことがあります。
引用元:その表現、本当に大丈夫?世界的に規制が進むダークパターン!
有料の座席がデフォルト選択されている格安航空会社
格安航空会社JetStarで航空券の予約手続きをすると、ある画面では有料席がデフォルトで選択されていて、下の図のように右上の赤枠のカートを見ると決済手数料が増えています。
これに気づかないと、実は選択していない座席の代金を支払っていることになります。
引用元:JetStar
ユーザーに不要なドメインを買わせるGoDaddy.com
オンラインショッピングが一般的になってきた今日この頃。この日常的な光景の中にも、ダークパターンが潜んでいます。
本来買おうと思っていた商品に加えて、買おうと思っていなかった商品がカゴに入っていることがあるのです。
ドメイン取得のためのウェブサイト(GoDaddy.com)で見られるダークパターンの事例をご紹介します。
下記のケースでは、年会費は3,769円ですが、初年度は2,300円で取得できると記載されています。「初年度」の文字は小さくて薄いですが、これも濃い柄ですね。では、カートに入れてみましょう。カートに入れる」というボタンが2つありますが、今回利用したいのは「darkpattern.jp」なので、上の赤枠で囲った「カートに入れる」ボタンをクリックします。
「カートに入れました」と表示されました。おかしなことに上のボタンをクリックしたつもりが、下のボタンも「カートに追加しました」に変わっています。また、右上には「4つのドメインが選択されました」と表示されているので、こっそり3つのドメインがカートに追加されています。次のステップに進みましょう。
次のステップに進むと、「完全ドメインプライバシーと保護」の項目が選択されていました。ここでさらに1項目がこっそりとバスケットに入っています。こっそり入っているのは自覚していますが、ここではそのまま進みます。
すると、これまでの小計が出ました。なんと、2,300円のドメイン名を取得するだけで、19,972円に膨れ上がってしまったのです。しかも、これには税金が含まれていないので、最終的にはそれ以上の金額になります。
このように、最終的な金額を見たときには気づくのですが、こっそりとバスケットにお金を入れるのは事実であり、ダークパターンでもあります。ちなみに、イギリスやアメリカではすでに違法となっています。
ダークパターン心理学
人は初期値に影響を受けるデフォルト効果
デフォルト効果の定義
デフォルト効果(default effect)とは、人間の意思決定や選択が最初に設定されている初期値(デフォルト)に影響されるという心理的傾向のこと。変える必要のないものに対して思考エネルギーの消費を回避しようとしたり、現状からの変化を「安定の損失」と認識したりする「現状維持バイアス」などによって、初期値を受け入れるという傾向である。
引用元:シマウマ用語集
ダークパターン事例 言葉巧みに選択を操作する「ひっかけ質問 」
■パソコンやスマートフォンに潜むデフォルト効果
パソコンやスマートフォンの初期設定にも、デフォルト効果が潜んでいます。
心理学には「現状維持バイアス」という言葉がありますが、これは人間が現状維持を強く望み、良いものであれ悪いものであれ、現状の変化をできるだけ避けようとする傾向のことです。初期設定の力は侮れません。画面サイズや日本語変換ソフトなど、パソコンやスマートフォンの設定を変えるだけで、格段に使いやすくなります。例えば、画面サイズや日本語変換ソフトなど、パソコンやスマートフォンの設定を変更するだけで、非常に使いやすくなります。インターネットを見るためのソフトも、最初からインストールされている「インターネットエクスプローラー」ではなく、「グーグルクローム」というソフトの方がスピードも速く使いやすいのです。
しかし、ほとんどの人が初期設定のまま使い続けています。
これは、人々には「現状維持バイアス」が存在し、たとえ数秒であっても、デフォルトの設定を変更するのは面倒だと感じるからです。
ナッジ(1)〜デフォルト設定の効果
デフォルト効果の詳しい解説は、ダークパターン事例 言葉巧みに選択を操作する「ひっかけ質問 」の記事内の「人は初期値に影響を受ける デフォルト効果」に記載しております。
顧客の同意なしに購入商品や契約内容を変えてはいけない
顧客の支払総額(購入内容)や契約に影響する重要な決定事項は、お客様の同意なしに事業者が変更するべきではありません。
価格や契約に影響する選択肢を提示する際には、デフォルトの選択肢を避け、お客様が能動的にクリック(タップ)するプロセスを用意することが重要です。
そうすれば、お客様は商品をカートに入れたことを意識するので、必然的にトラブルを避けることができます。
■あわせてお読みください 規制が始まる前に!脱ダークパターンサイトを作る12のアドバイス