ダークパターン事例 言葉巧みに選択を操作する「ひっかけ質問 」

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ひっかけ質問(トリッククエスチョン)のダークパターンとは?

ユーザーエクスペリエンスの専門家であるハリー・ブリヌルは、2010年に「ダークパターン」という言葉を作りました。ダークパターンとは、ユーザーに意図しない、あるいは潜在的に有害な決定をさせることを強要したり、誘導したり、欺いたりすることで、オンラインサービスに利益をもたらすユーザーインターフェース(UI)やデザインのことです。ハリー・ブリヌルは、ダークパターンの認知度を高めるために、ダークパターンを12種類に分類したサイト「darkpatterns.org」を運営しています。

この記事では、その中の1つであるひっかけ質問(トリッククエスチョンについて説明します。

ブラックな手口、ひっかけ質問(トリッククエスチョン)とは?

ひっかけ質問(トリッククエスチョン)とは、ユーザーが意図していない特定の選択肢を引き出すことを目的とした質問のことです。チェックボックスの意味を途中で反転させたり、二重否定を使ったりすることで、ユーザーが望まない選択をさせようとします。これは、ニュースレターへの登録や、個人情報の収集への同意など、さまざまな場面で利用されます。

「紛らわしい表現」でユーザーの選択を操作する

なぜ企業はダークパターンを使うのでしょうか?企業はユーザーに個人情報の提供やニュースレターの登録、有料プランの契約などに同意させたいと考えています。そのために、紛らわしい言葉を使ってユーザーの選択を操作するひっかけ質問(トリッククエスチョン)を使うのです。

 

選択を誘導する「ひっかけ質問」の事例

ひっかけ質問(トリッククエスチョン)は、オプトアウトのプロセス全体を微妙に逆転させることで、ユーザーがマーケティングやプロモーションメッセージを拒否することを回避しようとするものです。多くの場合、ウェブサイトはこの効果を得るために、紛らわしい二重否定や回りくどい言葉を使ったり、チェックボックスの意味を反転させたり、チェックボックスがデフォルトでオンになっている状態で同意を求めたりして、ひっかけ質問(トリッククエスチョン)でユーザーを陥れます。いくつかの例を見てみましょう。

二重否定、回りくどい表現を使う

話し言葉では、二重否定がよく使われます。二重否定とは、否定的な言葉を2回使って、より肯定的にしたり、より婉曲的にしたりする修辞的なテクニックです。話し言葉と同様にライティングでも使用すると、曖昧で誤解を招く恐れがあります。

下記の場合、一見すると、「個人の情報提供を停止する」はチェックボックスにチェックを入れることだと思うかもしれません。そうではなく、「購読を希望されない場合は、チェックボックスにチェックを入れないでください」ということです。続けて「停止する場合は、チェックボックスのチェックを外してください」と書かれているので、最後まで読まないと引っかかってしまいます。

チェックボックスの意味を反転させる

もう一つのひっかけ質問(トリッククエスチョン)は、チェックボックスの意味を途中で反転させることです。

「購読を希望されるメールを選択してください」と書かれていますが、途中で意味が反転しています。配信を希望しない場合は、メールオプション1とメールオプション2のチェックボックスにチェックを入れる必要があります。メールの購読を希望しないというチェックボックスに何もチェックを入れずに手続きをすると、メールオプション1と2のメールが届きます。

では、ウェブサイトデザイナーとして、選択肢をどのように述べるべきでしょうか。選択肢の表現は、できるだけポジティブなものにすべきです。これはチェックボックスなどの選択式コントロールの場合に特に重要で、否定的な表示をすると、選択する行為が否定を肯定することになり、混乱を招きます。

デフォルトでチェックボックスがONになっている

メールを配信する上で重要な事の一つは、送信前に同意を得ることですが、最初からチェックボックスがオンになっていて、「同意」がデフォルトになっている場合、これもひっかけ質問です。ユーザーは内容をよく確認して、必要なければチェックを外さなければなりません。

なお、総務省は、特定電子メールの送信等に関するガイドラインを発行しており、以下のように説明しています。

デフォルトオン/オフ(デフォルトオフの推奨)

ウェブフォーム等を活用して同意を取得する場合などでは、同意する旨のチ ェックボックスに予めチェックがされている状態など、利用者による作為がな い場合には同意したこととなる「デフォルトオン」と、予めチェックがされて おらず、利用者による作為がない場合には同意はしなかったこととなる「デフ ォルトオフ」の2つの方法がある。

同意の有無は、①受信者の認識があったかどうか、②賛成の意思表示があっ たかどうか、ということにより判断すべきであるとの考え方からすれば、同意 の有無は一概にデフォルトオンかデフォルトオフかのみで決まるものではなく、同意を取得する際の利用者への表示の方法が、同意により電子メールの送信があることを利用者が認識できるものになっているかどうか、利用者の賛成 の意思表示が示されたものといえるかどうか、によって決まるものであると考えられる。ただし、デフォルトオンと比較して、デフォルトオフの方が、受信者の意思 がより明確に表示されることになるのは確かであり、サービスの内容等にもよるが、その実施が可能な場合には、デフォルトオフによることが推奨される。

 

引用元:特定電子メールの送信等に関するガイドライン-総務省

ダークパターン心理学

ダークパターンは、心理的なメカニズムを利用してユーザーの行動を誘導します。このダークパターンを心理学的な観点から見てみましょう。デフォルトの選択には、損失回避バイアス現状維持バイアスという2つのバイアスが関わっています。このバイアスにより、すでに選択されている要素を変更しない傾向が生まれます。

損失回避バイアス

損失回避バイアスとは、利益よりも損失を重視する心理的傾向のことです。プロスペクト理論で有名なダニエル・カーネマンは、金額が同じであれば、人は利益の喜びよりも損失の痛みを感じやすいことを立証し、この傾向を損失回避バイアスと名付けました。研究によると、リスクを選択するためには、2倍の利益が必要とされています。
関連:プロスペクト理論

現状維持バイアス

現状維持バイアスとは、変化や未知のものを避け、現状維持を好む心理的傾向のことです。 現状から新しいものへの変化は、安定性を失うことだと認識し、現状維持に固執します。リスクがはるかに大きい場合でも、現状維持バイアスが働くことがあり、そこから抜け出すには強い意志が必要です。
関連: Status quo bias(現状維持バイアス)

人は初期値に影響を受ける デフォルト効果

デフォルト効果という言葉を聞いたことがありますか?デフォルト効果とは、最初に設定された初期値(デフォルト)に影響されて、人が意思決定や選択をしてしまう心理的傾向のことです。デフォルトが設定されていると、新たに変更する手間をかけたくないので、既存の選択肢のままでいいと判断してしまうのです。

下の図は、ヨーロッパ各国の臓器提供の同意率を示しています。

左側の4カ国(デンマーク、オランダ、イギリス、ドイツ)と右側の7カ国(オーストリア、ベルギー、フランス、ハンガリー、ポーランド、ポルトガル、スウェーデン)では、同意率に大きな差があります。なぜこのような違いがあるのでしょうか?

その違いは、デフォルトにあります。左の4カ国(デンマーク、オランダ、イギリス、ドイツ)はオプトイン方式で、右の7カ国(オーストリア、ベルギー、フランス、ハンガリー、ポーランド、ポルトガル、スウェーデン)はオプトアウト方式です。 
そのため、デフォルトの状態から変更する労力が負担になったのか、デフォルトの状態である「同意しない」という状態から変更せず、結果的に左の4カ国(デンマーク、オランダ、イギリス、ドイツ)の同意率が低くなりました。

このデフォルト効果をひっかけ質問(トリッククエスチョン)で使用しているのです。

 

ひっかけ質問は「流し読みユーザー」の弱点を突いたダークパターン

ユーザーは読まないことを示すデータがあります。平均的なWebページでは、ユーザーが1回のアクセスで読むことができるテキストの量はせいぜい28%で、20%の可能性が高いとみられます。そのことについての詳しい調査結果はNot Quite the Average: An Empirical Study of Web UseACM Transactions on the Web、vol. 2、no. 1、2008年2月)にて参照できます。

以下の図は、ページ内のワード数の違いによるユーザーの平均滞在時間の変化を示しています。

見ての通り、情報量の多いページほどユーザーの滞在時間は長くなる傾向にあります。ただし、統計的に最良適合を求めると、100ワード増えるごとに滞在時間が4.4秒しか延びていないことが分かります。

以下の図は、平均的なページ滞在の間にユーザーが読むことができたテキスト量の最大値を示しています。

この曲線は急激に落ち込むことがよく分かります。平均的な状況では、111ワード以下のページに限っては、ユーザーが半分は情報を読んでいることになります。

データ全体に目を向けると、平均的なページには593ワードのテキストが含まれていました。したがって、これもまた平均すると、ユーザーがテキストを読むことだけに専念するなら、全体の28%が読む時間はあることになります。もっと現実的に見れば、ユーザーが普通のページで読むのはテキスト全体の20%程度と言えるでしょう。

引用元:U-Site

つまり、流し読みユーザーはダークパターンの罠にかかってしまうのです。

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