「ダークパターン」は、必ずしも悪意があって仕向けられたものではありません。
多くの場合、これは企業文化が分裂したことによる影響です。
果たして時代は変わるのでしょうか?
最近のニューヨークタイムズ紙の論説では、「 Stopping the Manipulation Machines(操りマシーンを阻止せよ)」と題し、ダークパターン(人々を混乱させたり、意図的に不便にさせたりすることで、オンラインで何かをするように仕向けるデザイン設計)の使用を批判しています。
タイムズ紙の編集局員であるグレッグ・ベンシンガー(Greg Bensinger)氏は、不愉快なダークパターンを指摘する、素晴らしい仕事をしています。
彼の最初の標的は、アマゾンプライムにおける退会手続きで、彼はこれを “複数の画面とクリックを必要とする難解な手続き” と呼びました。
ベンシンガー氏は、アマゾンが年間119ドルを支払っていた顧客に、登録時の楽な登録手続きよりも、はるかに多くの画面とクリックを伴う分かりにくい手順で、解約するのをちゅうしょさせている、と主張しています。
アマゾンが使っているダークパターンは「ゴキブリホイホイ」と呼ばれるもので、虫捕り網のように、人々は登録はできても、決して解約はできないことからそう名付けられました。
これは非倫理的なデザインの一例であり、本来であれば、購読を開始するのと同じくらい簡単に解約できるようにするのが正しいのです。
ハイテク製品が、いかに私たちの興味を釘付けにするかについて2冊の本を書いた私は、このテクニックに関する詳細を既に知っていました。
なので、ニューヨークタイムズ紙が自社の購読者の解約を防ぐために、同社が批判しているのとまったく同じダークパターンを使っていることに私は驚きました。
さらに興味深いのは、このような非倫理的なデザインがあらゆる組織で起きていることです。
まず私は、ニューヨークタイムズ紙がどのようにゴキブリホイホイを使い、顧客の配信停止を防いでいるかについて説明しましょう。
そして、この手の倫理観の欠如がどのように起きているのか、またダークパターンを使わないために企業は何をすればいいのかについて掘り下げていきます。
目次
ニューヨークタイムズ紙のゴキブリホイホイの仕組み
ニューヨークタイムズ紙の購読申し込みは簡単で、数回クリックするだけで担当者とやり取りすることなく、誰でも数秒で申し込むことができます。
しかし、購読をキャンセルする場合はどうでしょうか?
それは、また別の問題です。
私が、同紙の購読解除のためにしなければならなかったことを一通り見ていきましょう。
まず私は、購読解除するためにどこにアクセスすればいいかを探す必要がありました。
ログインして自分のアカウントに移動してから、少なくとも3つの画面にたどり着かなければなりませんでした。
そして、適切なボタンを見つけたら、電話で担当者と直接話すか(ただし、指定された営業時間内に限る)、オンラインのチャット機能を使わなければなりませんでした。
すでに購読解除の手続きは、登録時よりも手間がかかっていますが、タイムズ紙はここで、意図的にねちねちしたユーザーインターフェースを使い、顧客の引き留めを図っています。
その日は指定された営業時間より遅かったので、私はチャット機能を利用せざるを得ませんでした。
後で電話するのを忘れそうだったので、そのまま「チャット開始」をクリックしました。
このとき私は、これが担当者との数分間の交渉につながることを知りませんでした。
私が担当者にキャンセルしたい旨を伝えると、彼は私に解約しない理由を提示しました。
理由を提示されるたびに私は「No、thanks(結構です。)」と答えました。
その後、担当者が返答してくるのを待ち、キャンセルをしないようにと何度も持ちかけてきましたが、その後ようやくそのチャットを退出することができたのです。
購読解除は、通常であれば簡単であるはずですよね?
購読を開始するときは数秒でしたが、解約するときは担当者と何度もやり取りをし、数分を要しました。
これは典型的なゴキブリホイホイの手法です。
もちろん、最終的に私の望む結果を得ることはできましたが、問題はそこではありません。
ダークパターンは完全に行動を妨げるのではなく、巧妙な手を使い私たちの認識力に負荷をかけ、時間を浪費させるのです。
なぜタイムズ紙はこんなことをするのか?
その答えは単純で、その方が儲かるからです。
なぜ、編集委員の一人がこのやり方を指摘したにもかかわらず、彼らはそれを続けているのでしょうか?
これは企業文化に問題があります。
悪い倫理観=悪い企業文化の兆候である
タイムズ紙が示した卑劣な偽善行為は、企業が非倫理的なデザインを採用する際の重要なケーススタディのひとつです。
著者は、決して購読解除をしようとしなかったに違いありません。
彼はその会社が、自身が激怒したのと同じ手口を使っていることを、どのように知ることができたのでしょうか?
ニューヨークタイムズ紙では数千人が働いていますが、この解約手続きの流れを担当するチームはおそらく一桁台でしょう。
これは大企業にとってささいな出来事であり、操作的な戦略は同社のスタッフの邪悪な計画や陰謀ではありません。
たいていの場合、コンバージョン率最適化(CRO)の専門家は、単に数字を追って「最適な」ワークフローを考えただけで、それがダークパターンを作り出しているとは思いもしなかったでしょう。
そのため、ベンシンガー氏個人を批判するのはフェアではなく、ニューヨークタイムズという会社を批判するのもフェアではありません。
多くの大企業では、左手はある仕事をし、右手は別の仕事をしているものです。
会社の規模が大きくなればなるほど、何が起きているかをすべて見通すのは難しくなります。
残念なことに、その中には非倫理的な行為も含まれており、この場合、会社はことわざ通り、己の口に足を突っ込むことになりかねません。
では、タイムズ紙は、この問題をどのように解決するのでしょうか?
時代は変わるのだろうか?
この非倫理的なデザインを、タイムズ紙の記者が暴露したのだから、同社はこのダークパターンを完全に排除するべきでしょう。
しかし、ダークパターンやその他の強制的なデザイン手法を、意図せずに使用しないようにするにはどうすればいいのでしょうか?
規制当局が、できることとできないことを正確に指示するのを待つのは、技術革新を制限するような中途半端な法律になる危険を伴います。
また、企業は今すぐに正しいことをするのではなく、規制されるのを待つ責任があるでしょう。
そこで私は、リグレットテストを提案します。
どのようなツールを作るときでも、デザイナーはこう尋ねることができます。
₋ もし人々がデザイナーの思惑をすべて知っていたとしても、彼らは意図した行動を取るでしょうか?
₋ 今回の場合であれば、解約するために何が必要かを知っていたら、それでも人々は購読するでしょうか?
私の推測では、おそらく多くの潜在的な顧客はこのサービスを利用しないでしょう。
多くの人は、タイムズ紙のゴキブリホイホイに賛成かもしれませんが、問題は異議を唱える人の数が多すぎることです。
もし、あなたの顧客の半分がこのデザインに賛成し、残りの半分がこのダークパターンに不満を持っているとしたら、それはあまりにも多すぎます。
企業はリグレットテストに合格するための最低基準を設けるべきでしょう。
もしユーザーがそのデザインを後悔しているのであれば、そのテクニックはテストに不合格になります。
このようなテクニックは、もし彼らが情報を完全に把握していたらしないであろうことを強要することになるので、製品に組み込まれるべきではありません。
では、製品を使ってユーザーが後悔しているかどうかを見分けるには、どうすればいいのでしょうか?
それは簡単です。
彼らに聞いてみるのです。
企業は常に可能性のある機能をテストしており、これはユーザビリティーテストと呼ばれています。
このテストに、労力やコストをそれほどかける必要はありません。
ニールセンノーマングループ(Nielsen Norman Group)のヤコブ・ニールセン(Jakob Nielsen)は、最近の記事で、たった5人のテストでもユーザーの利便性テストの結果が得られるだろう、と記しています。
それが意図しない結果を排除し、何百万人ものユーザーに公開される前に望ましくないデザインに歯止めをかけるのに役立つのであれば、このテストはそれだけの価値があるのです。
残念でならない未来におけるデザイン
ニューヨークタイムズを含むほぼすべての企業は、ユーザーの信頼と忠誠心を獲得し、維持したいと考えていることでしょう。
しかし、エシカルデザインを無視したり、さらに悪いことに、ダークパターンを使いながら批判したりすると、顧客は会社を敵視します。
多くの人に経験があるように、私もFacebookのような気が散るアプリを携帯電話からアンインストールしたことがあります。
Facebookは、私のような人々が製品を見捨てることがないよう、製品を変更することが企業の利益になるのではないのでしょうか?
同様に、ニューヨークタイムズ紙にとっても、その面倒な解約デザインにより、人々が購読を控えたり、あるいは解約後に再び戻ってくることを知るのは、最善の利益となるでしょう。
Facebook、 ニューヨークタイムズ紙、 あるいは他の企業であろうと、何らかの理由で不満を募らせるユーザーの声に耳を傾けないのであれば、さらに多くの人々がそのサービスを利用しなくなる危険性があるでしょう。
製品を使って残念に思う人々を無視することは、倫理的に問題があるだけでなく、ビジネスにとっても良くありません。
一方、ユーザーの声に耳を傾ける製品担当者は、ユーザーがこれまで以上に自分たちの仕事を評価していることに気づくことでしょう。
-Nir