チケット予約やネットショッピングで購入ボタンを押した後、最初に見た金額とは異なる高い金額が表示されるには理由があります。
これはユーザーが無意識に不利な行動を取るように設計された、悪意のあるデザイン「ダークパターン」の一つの手法である「ドリッププライシング(隠れたコスト)」です。
なぜそれらが多用されるようになったのかを説明していきます。
目次
ドリッププライシングとは
最初は安い金額を表示させ決済画面へ進むと、実際には送料や手数料、消費税などを加算する手法です。
商品やサービスのオンライン小売業者が使用する手法で、購入プロセスの開始時にヘッドライン価格が宣伝され、その後、避けられない追加料金、税金、料金が徐々に開示、つまり「ドリップ」されます。
ドリッププライシングの目的は、消費者が購入プロセスに時間と労力を費やして購入を決定するまで、本当の最終価格を明らかにせず、誤解を招くような低い見出し価格で消費者の関心を引くことです。
引用元:Academic Accelerato「Drip Pricing」
画像引用元:Deceptive Patterns「Hidden Costs」
上記の画像を見てみると、最初はチケット代のみ表示されていたのにも関わらず、購入画面に進み名前やメールアドレスなどの必要事項を入力すると、実際のチケット代金に29%の追加料金が上乗せされていることが分かります。
ダークパターン事例 最後に予想外の料金が発生する「隠れたコスト」
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ドリッププライシングの効果を調べる実験
シカゴ大学のサラ・モシャリー氏や、カリフォルニア大学バークレー・ハースのスティーブン・タデリス氏は、アメリカの大手チケット販売サイトStubHub(チケットを売りたい人と買いたい人を結ぶサービス)上で、「ドリッププライシング」の効果について数年間に渡り大規模な実験を行いました。
実験では2つの料金形態に分けて金額を表示
StubHubの数百万人のユーザーの半数ずつに対して、実験では2種類の料金形態をランダムに割り当てました。
Aグループ:最後まで手数料が表示されず本体価格のみ提示されたケース
ショッピング画面では本体価格のみを表示し、購入画面に進んで初めて追加料金(手数料や消費税など)を含めた金額を表示した。このユーザーへはチケットの料金の15%にあたる追加料金を含めた。
Bグループ:最初から本体価格と追加料金の総額が表示されたケース
残りの半数のユーザーへは、最初から手数料や送料、消費税などの追加料金を含めた総額をショッピング画面に表示させた。
2つのグループの実験結果
Aグループである最初に本体価格のみ提示され、最後まで追加料金が表示されなかったユーザーは、最初から支払総額を表示されたユーザーに比べて20%もの売上げが増加し、購入に至る可能性が14%高くなることが分かりました。
また、Aグループのユーザーは、ステージに近い席を選択するなどより良い席を購入し、Bグループのユーザーに比べて5%高額なチケットを購入していたのです。
チケットを購入するまでの動き
Aグループの最初に本体価格のみ提示されたユーザーは、ランディングページでチケットをクリックする確率が非常に高く、Bグループの最初から総額を表示されたユーザーに比べて、クリック率は119%となりました。
しかし、Aグループは最終決済画面で離脱する確率も高くなり、最初から支払総額を表示されたBグループのユーザーに比べて、約半数が最終的に購入に至りませんでした。
また、このように最終的にクリックをやめたユーザーは、ページを戻りチケットを再検索する確率も高くなったのです。
価格設定や出品内容の変化
実験結果からStubHubは購入画面に進むまで手数料や消費税などの追加料金が表示されないシステムに変更しました。
StubHubは従来のショッピングサイトと異なり、ユーザーが自由にチケットの売買を行えるため、システムが変更されたことで、売り手側が本体価格を見てお得に感じる(=購入意欲をかき立てる)ように、チケットの価格の端数まで設定するようになったといいます。
また、決済画面まで追加料金が表示されない場合は、高額でもステージに近い良い席が売れることが分かったことから、より高価なチケットが出品される結果となりました。
ヘビーユーザーと新規ユーザーの購入率
さらにStubHubでは、サイトのヘビーユーザーと、新規ユーザーに分けて追加の実験を行いました。
過去に10回以上、StubHubのサイトへアクセスしたことのあるユーザーは、ドリッププライシング(最初に本体価格のみ表示して、決済画面で追加料金を表示する)を行うと、新規ユーザーに比べて購入額が少なくなることが分かりました。
これらからStubHubのサイト上で、ユーザーはドリッププライシングが使用されていることを理解した上で購入していることが伺えます。
追加の実験を終えて
購入頻度が少なく、高価な住宅や自動車など購入に慣れていないものほど、ドリッププライシングの効果が顕著に表れるといえます。
ドリッププライシングの注意喚起
実験を行ったスティーブン・タデリス氏は、
「消費者への被害はわれわれの研究で明らかなので、どの国でもこの慣行を許可する十分な理由が思いつかない」と述べました。
実際に世界でもカナダや、シンガポールではドリッププライシングの使用について規制が始まっており、アメリカでも、透明性の高い価格設定「オールインプライス」への移行を、大手チケット販売サイトの一部の企業が支持を表明しています。
日本では直接的な罰則はないものの、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)で不当な価格表示を行わないように規制があります。
引用元:NNA ASIA:価格設定のガイドライン発行、透明性向上へ
景品表示法については、ソーシャルプルーフと不正広告の関係をお読みください。
最後に
ドリッププライシングは購買促進と売上アップへの結果が表れやすく、ユーザーにも浸透している手法です。
使用するにはユーザーとの信頼を失う可能性があること、ドリッププライシングは価格競争を促すものではなく、一部の売り手だけが利益を得るものであることを忘れてはいけません。
参考:GIGAZINE.BIZ「決済時に初めて支払総額が表示される「ドリッププライシング」の圧倒的な効果が実験で示される」