米国連邦取引委員会(以下FTC)が2023年6月21日、「ユーザーの同意を得ずに勝手にAmazon Primeに登録した」としてAmazon.com(以下Amazon)を提訴しました。
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FTCがダークパターンから消費者を守るためにAmazonを提訴
FTCは、Amazonが“ダークパターン(またはDeceptive Patterns)”と呼ばれるユーザーをあざむくデザインを意図的に使用していたと主張しました。
何百万人ものユーザーに対して有料サービス“Amazon プライム”への登録を執拗にうながし、また解約手続きを故意に複雑にしたのが提訴の理由です。FTCはこれらの行為を強く非難しました。
FTCの委員長であるリナ・M・カーン(Lina M. Khan)は、「Amazonはユーザーの同意なしにユーザーをサブスクリプションに誘導し、ユーザーを不快にさせるだけでなく、彼らに高額な費用を負担させました」と述べ、ダークパターンや誤解を招く慣行から消費者を保護する姿勢を示しています。
なぜ、Amazonはダークパターンを使い続けたのか?
Amazon側は「解約も明快かつシンプルに設計されている」と反論しました。
しかし、Amazonは2021年1月14日にも欧米の16の消費者団体によって「Amazonプライム会員の解約を不当に妨げており、法律に違反している」と訴えられています。
なぜ、そこまでに至ってもAmazonはダークパターンを使い続けたのでしょうか。
考えられる要因の一つは、ダークパターンを生み出す職場環境の存在です。ここで重要なのは、ダークパターンはデザイナーだけが作り出すものではないということです。
売上を伸ばすことに固執することで、組織内でダークパターンが生まれる可能性は高くなります。特に大企業であれば、この傾向は一層顕著になるでしょう。
Amazonが使用したダークパターンの事例
この問題で取り上げられたダークパターンの事例を、一部紹介します。
小さく書かれた契約に関するテキスト
Amazonサイトの特定のページをモバイルデバイスで閲覧する場合、上部には「30日間の無料プライムを提供しています」という通知が表示されます。さらに、小さい文字で「無料トライアル後、Primeは月額$14.99です」という文言も表示されますが、プライムの自動更新機能については触れられていませんでした。
契約後、年間契約や無料トライアルの終了後には、事前の通知なしにユーザーの承諾を得ることなく、自動的に更新されて支払いが行われます。
複雑な解約プロセス
※イメージ画像
Amazonが“The Iliad Flow(イリアス・フロー)”と呼ぶ解約手続きは、4ページにもわたり、6回のクリックと15のオプションが必要でした。プライム会員になるための登録は1、2回のクリックで完了するのに対して、解約手続きは、この面倒な工程を最後まで完了できた場合のみ解約できるのです。
このように意図的に解約手続きを複雑にするダークパターンを「ゴキブリホイホイ」といいます。下記記事も併せてご覧ください。
ダークパターン事例 サービスの退会が難しい「ゴキブリホイホイ」
かつて、動画配信サービスDisney+(ディズニープラス)では、退会を試みようとすると、完了までにトップページから十数ページ遷移する必要がありました。
このような複雑な解約手続きによって、ユーザーを引き留めるダークパターンは、多くの企業が採用しており、私たちの身近にひそむダークパターンのひとつです。
参照元:complaint for permanent injunction, civil penalties, monetary relief, and other equitable relief
まとめ
恐ろしいことに、ダークパターンは故意的でなくとも、無意識に取り入れる可能性があります。
2022年の売上高は5139億ドルにも上り、2億人の会員数を誇る世界のEC市場を牽引するAmazonですが、それでもなおダークパターンを使い続けてしまうのです。
Amazonは欧米の消費者団体に訴えられたあと、プライム会員登録を解約するために必要なプロセスを簡素化することに同意し、改善に向けた努力もしていました。
最も大切なことは、問題に発展する前に「ユーザーが抱える不安や懸念は何か」を理解し、組織全体で改善に取り組むことです。そのためには、ユーザーと最も接する機会が多い担当者にヒアリングを行うことが第一歩となります。会社に寄せられた苦情や疑問には、ビジネスを成長させるための重要なヒントが必ず含まれているはずです。
今回の提訴により、ダークパターンという言葉がさらに広まることが期待されます。ダークパターンによって大きな信頼を失う前に、信頼性高いデザイン手法を学びましょう。
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