ユーザーをあざむくデザイン『ダークパターン』を解き明かす

仲野 佑希

北海道在住のフリーランスのUXライター。『ザ・ダークパターン』の著者。監修書に『UXライティングの教科書』『ザ・マイクロコピー』など多数。

この記事は『ザ・ダークパターン』の著者 仲野佑希さんよりご寄稿いただいたものです。

2022年に上梓した拙著『ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン』では、一部の企業が用いているダークパターンの事例を、複数の論文と調査データを交えながら220ページに渡りご紹介しました(まもなく、韓国と台湾でも出版されます)。

本書でも取り上げたように、ユーザーをあざむくインターフェースデザイン、ダークパターン(=ディセプティブ・デザイン)は、消費者のお金や個人情報、そして貴重な時間を奪うものです。

解約しにくいサブスクリプションや、あらかじめチェックの入った同意ボックスなど、私たちが普段利用しているサービスにも、様々なダークパターンが仕掛けられていることに気がつくでしょう。

近年ではインターネットをめぐる消費者トラブルも増加傾向にあり、消費者庁では、現行の景品表示法では規制の及ばない「悪質な販売方法」への対策に動き始めています。

 

 

今後、中長期的に見れば、ダークパターンへの規制はさらに広がる可能性があります。

欧米ではビデオゲームにおけるダークパターンに法的制裁が下されたほか、ビッグテックによる個人情報の欺瞞的な利用に対する訴訟が起きています。

ダークパターンの中には、ネット・リテラシーの低い子供や高齢者をターゲットにしたものや、デザインの表層には現れないものもあります。

また、AIのアルゴリズムに基づいた機能(またはそのように見せかけた機能)に人の手による介入があった場合、消費者が欺瞞的な操作に気がつくことは困難です。

ダークパターンは、私たちの生活により「溶け込んだ」ものになりつつあるのです。

 

ユーザーへネガティブな方法で選択を迫る。この事例では、拒否の選択肢に、自らの選択が愚かだと感じさせるような表現を使っている。

セールの期限を知らせるカウントダウンタイマー。しかし実際にはソースコードによりタイマーを繰り返しループさせている(セール期限が存在しない)。

Cookieの利用を伝えるポップアップ画面。同意ボタンを視覚的に強調する一方で、拒否ボタンを目立たせないように設計している。

※本書のチャプター3では、図版を交えながらダークパターンの具体例を紹介しています。

ダークパターンは組織の内側から生じる

ダークパターンは短期的に有効であっても、消費者が騙され、権利が侵害されていると感じたとき、ブランド認知への影響は大きくなります。またそれに伴い、組織には様々なリスクが生じます。

  • カスタマーサポートへの負担増
  • 返品率の増加
  • SNSでの悪評の拡散・ネガティブレビュー(レピュテーションリスク)
  • 顧客のライフタイムバリューの低下
  • 新規顧客獲得コストの増加
  • 従業員の離職率・人材の採用コストの増加
  • 消費者トラブルへの発展(紛争・訴訟のリスク)
  • 法律違反・罰則リスク
  • 業界全体の信頼が損なわれる

 

しかし、仮にダークパターンが一人のデザイナーによって生み出されたものであったとしても、その背景には、必ず組織の環境的な要因があります。

実際の仕事の中で、個々人がブランドの「長期的な価値」と「短期的な利益」を比べることは容易ではありません。

個人の倫理と行動基準は、良くも悪くも組織環境の影響を受けるからです。ダークパターンは組織の内側から生み出されます。

組織で採用する数値測定方法や評価基準、人事考課や部門体制もそのひとつです。

ビジネスを立ち上げた理由であるミッションやビジョンが浸透していなかったり、それによってチームの行動基準が不明瞭であったりする場合にも、ダークパターンは採用されやすくなります。



気をつけなければならないのは、ダークパターンは必ずしも、作り手の「邪悪なマインド」によって生み出されるものとは限らないということです。

それどころか、自分たちが自信を持って作り上げているサービスをもっとユーザーに使ってほしい、自分たちのコンテンツを通じてユーザーの生活を良くしたい、という気持ちに根ざしていることがほとんどでしょう。

ところが組織の規模が大きくなるにつれ、一人ひとりの責任も小さく感じられるようになります。例えば、マーケティング担当者がA/Bテストで特定の指標を追い求めるあまり、ユーザーを見失ってしまうことはよくあることです。

表層のデザインにばかり目を向けるのではなく、それを生み出す原因がどこにあるかを見なければなりません。

 

数値測定・・・追いかけている数値指標は、ユーザーの課題解決と結びついているか。ビジネス側のゴールにフォーカスした指標だけを追いかけていないか。

人事評価制度・・・個人のインセンティブに紐ついた評価制度が、ユーザーにダメージを与えるマーケティング施策を生み出していないか(キャンベルの法則)。

組織のサイロ化・・・部門が孤立していないか。ユーザーの声が絶えず汲み取られるように連携が図られているか。

社内コンプライアンス・・・法令遵守だけでなく、グレーゾーンにおいての組織の行動基準は定められているか。

開発スピード・・・プロダクトの開発・改善スピードが早過ぎて、ユーザーへの影響を考慮する時間が失われていないか(デザインの「応急処置的」な対応が増えていないか)。

組織のビジョンとミッション・・・組織のビジョン(企業がどんな未来を実現したいのか)やミッション(企業が何のために存在しているのか)は浸透しているか。

デザインガイドラインの有無・・・ブランドとして一貫性のあるデザインやライティングのルールは定められているか。

 

著名な物理学者が残した言葉に、次のような格言があります。

「Not everything that counts can be counted, and not everything that can be counts

(数えられるものすべてが大事なわけではない。大事なものすべてが数えられるわけではない)」

 

自分たちのサービスやプロダクトを広めようとするとき、実際に私たちは、目の前の数字で物事を判断しています。しかしそれと同時に、指標への執着が自分やチームの意思決定に及ぼす影響もまた認識しておかなければなりません。

ユーザーとビジネスのゴールのバランスを取るには、定量的な情報だけでなく、定性的な情報が必要です。つまり、ユーザーに会い、ユーザーの声を聞くことです。

あなたのチームの意思決定フローには、この2つがバランスよく取り入れられているでしょうか?もしあなたの組織でダークパターンが使われていることに気がついたのなら、それは組織環境を見直すべきタイミングに来ているということです。

ブランドを成長させるための、重要なサインを見逃さないでください。

 

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