なぜヨドバシは顧客満足度No.1?Amazon比較で見る信頼設計

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以前、ヨドバシカメラが運営するECサイト「ヨドバシ・ドット・コム(以下、ヨドバシ)」がサービス産業全体を対象とした日本版顧客満足度指数(JCSI)調査(※)では、通信販売部門で10年連続の満足度No.1を獲得していることをお伝えさせていただきました。売上では楽天やAmazonに及びませんが、ユーザーからの信頼という点では圧倒的な支持を得ています。

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(※)参考:サービス産業生産性協議会 2024年度第2回 JCSI調査結果

今回は、より具体的に皆様のサイトにも取り入れていただけるように、ヨドバシのサイトのどんなところが良い点なのか、Amazonと比較しながら分析してみました。

サイトの使いやすさは、単なる見た目や機能性だけでは測れません。ユーザーの迷いを防ぎ、自分の意志で選べたと感じられる設計こそが、長期的な信頼と満足度につながります。

ECサイトを運営する立場、経営者としての視点で、ユーザーから選ばれ続けるための設計とは何か。ヨドバシとAmazonの比較を通して、誠実なEC体験のあり方を一緒に考えていきましょう。

 

1. ユーザーが迷わない設計とは?ヨドバシから学ぶ、選ばれる理由

ユーザーにとって、買いたくなるECサイトとは、単に操作が簡単だったり、デザインが美しいだけではありません。より本質的に求められているのは、目的にたどり着くまでの道筋が明確で、判断に余計な負担がかからない設計です。

近年、ECサイトにおける設計の巧妙さが問題視されることが増えてきました。とくに、ユーザーにとって不利益な選択を気づかせないまま誘導する、ダークパターンと呼ばれる手法が注目されています。これは売上向上のテクニックとして導入される一方で、ユーザー体験を損ね、信頼を失うリスクをはらんでいます。

ヨドバシは、そうした心理的な誘導を避けるかたちで、できる限りユーザーが自分の意思で選び、行動できる環境を整えています。その姿勢が結果として、顧客満足度の高さにつながっていると考えられます。

この章では、Amazonとの比較を通じて、ヨドバシがどのように迷わせないサイト設計を実現しているのかを見ていきます。

定期便に惑わされない、シンプルな購入ボタン

ユーザーが「買いたい」と思ったときに、迷いなくその商品を選べる導線設計は、ECサイトの信頼性を大きく左右します。

その点で、ヨドバシの単品購入導線は非常にシンプルかつ明快です。商品ページからカート追加、購入までの流れに無駄がなく、ユーザーの選択を邪魔しない設計となっています。

一方、Amazonでは「定期おトク便」が初期状態で選択されているケースがあり、購入手続きを進めるうちに気づかないまま定期購入が設定されてしまうこともあります。

Amazonの購入ボタン例

「一度だけ買いたかったのに、いつの間にか定期便に…」というような体験は、ユーザーにとって不信感やストレスの原因になりかねません。

このような仕組みは、意図せず定期購入へと誘導してしまう「こっそりカゴに入れる」と呼ばれるダークパターンに近いと考えられます。選択を明示的に確認させないまま契約が成立する構造は、ユーザー体験を損なうリスクが高いといえるでしょう。

ヨドバシのように、ユーザーの選択権を侵さず、シンプルでわかりやすい購入導線を設計することは、売上よりもまずは信頼を優先する姿勢の表れです。そしてそれこそが、継続的な支持につながる要素になっているのです。

■あわせて読みたい⇒ダークパターン事例 買い物客の同意なく「こっそりカゴに入れる」

視覚的にわかりやすい価格表示で、ストレスなし

ECサイトでの買い物において、ユーザーが価格をスムーズに認識できることは、安心して購入を進めるうえで欠かせない要素です。とくに初めて訪れるサイトでは、少しでも「分かりづらい」と感じた瞬間に、離脱やカゴ落ちにつながることも少なくありません。

ヨドバシでは、価格表示において円マーク(¥)も数字と同じサイズで表示されており、金額がパッと目に入ってきます。余計な認識のズレがなく、ユーザーが価格を一目で把握できるような設計になっています。

一方、Amazonでは円マーク(¥)が数字よりも小さく表示されていることがあり、金額そのものを見間違えるわけではないものの、「あれ、いくらだったっけ?」と一瞬迷ってしまうこともあります。こうした視覚的な違和感があると、判断を迷わすきっかけとなりかねません。

このように、視覚的な要素でユーザーの注意を逸らしたり、判断を鈍らせたりする手法は、「視覚的干渉」と呼ばれるダークパターンに近い設計といえるでしょう。心理的なストレスは小さくても、それが積み重なることでEC体験全体への印象が左右されてしまいます。

もちろんこのような工夫は、マーケティングの観点から見ると、価格の印象をやわらげて売上につなげる手法として一定の理解もできます。経営的な視点では、コンバージョン率を高めるための工夫として合理的ともいえるかもしれません。

しかし、長期的にユーザーとの信頼関係を築くという観点では、正確で誠実な情報提供の方が、結果として選ばれる理由になるのではないでしょうか。

■あわせて読みたい⇒ダークパターン事例 誘導的なデザインで選択を操作する「視覚的干渉」

参考:アプリマーケティング研究所:値段の「¥マーク」を小さくしたら購入率が大きく改善された

会員登録なしで買える、はじめての人にもやさしい設計

ECサイトを初めて訪れるユーザーにとって、購入までのステップがシンプルかどうかは、そのサイトに対する第一印象を大きく左右します。特に、「今すぐ買いたい」というシーンで、アカウント作成や個人情報の入力を強いられると、その時点で購入意欲が削がれてしまうことも少なくありません。

ヨドバシでは、会員登録をしなくても商品を購入できる「ゲスト購入」機能を提供しており、この導線設計は初回利用者にとって非常にありがたい存在です。この仕組みはGuest Checkout(ゲストチェックアウト)と呼ばれています。必要最低限の入力で購入を完了できる設計は、ユーザーの行動を妨げず、「買いたい」という意思を素直に受け止めてくれる誠実なユーザー体験といえるでしょう。

一方で、他の多くのECサイトでは、購入のために会員登録を強制される場面が多く見られます。このような設計は「Forced Action(強制)」というダークパターンに近しいと考えられ、ユーザーが希望する行動を取るために、関係のない行為を伴わせる手法です。

たとえば、商品を買いたいだけなのにアカウント作成を求められたり、利用規約に同意したとたん、自動でメルマガの購読やプロモーション協力にも合意させられたりといった設計がそれにあたります。表面的には合理的に見えるこれらのプロセスも、実際にはユーザーの選択肢を狭め、不快感や不信感の温床になりかねません。

その点、ヨドバシのように、本当に必要なことだけをユーザーに求める設計は、シンプルながらもユーザーに配慮した誠実なサイト設計といえるのです。

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商品カートで、追加のコストを求められない信頼設計

商品購入の最終画面で追加のコストを要求されると、だまされたような気分になる消費者も少なくありません。また、そのため、これはカート落ちの最大の原因ともいわれています。

実際に、Baymard Instituteの調査でも、「予期せぬ追加コスト(送料・税金・手数料)」はカート落ち理由の第1位であり、全体の39%を占めるというデータも出ています。このことからも、価格の明瞭さがユーザー体験においていかに重要かがわかります。

出典:Baymard Institute 2025       

Amazonでは、定期おトク便における価格の変動配送オプションの複雑さから、ユーザーが追加コストに気づかず進んでしまい、結果として、思ったより高くついたと感じるケースがあります。こうした設計は、ユーザーの期待を裏切る「隠されたコスト」というダークパターンに近く、信頼を損ねるリスクをはらんでいます。

一方、ヨドバシでは、配送オプションや価格があらかじめ明確に提示されており、購入手続きの中で思わぬ費用が発生することがありません。

このような隠れコストを排除した透明性の高い設計は、ユーザーの安心感を高め、またここで買いたいと思わせる要素となっています。

■あわせて読みたい⇒ ダークパターン事例 最後に予想外の料金が発生する「隠れたコスト」

参考:Baymard Institute 2025:49 Cart Abandonment Rate Statistics 2025

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2. 誠実な設計にも残る、迷いを生む惜しいポイント

ユーザー体験を第一に考えたヨドバシのEC設計は、多くの面で信頼を集めるものとなっていますが、細かな部分では改善の余地も残されています。とくに初めて使う人や、複数の商品を比較しながら購入する人にとっては、導線や視認性において少し不便さを感じる場面もあります。

この章では、そんなあと一歩の改善で、より優れたEC体験につながる可能性のある点について取り上げます。信頼を損なうような設計ではないものの、ユーザーに使いづらさを感じさせてしまう部分は、継続的に選ばれるサイトになるための観点からも無視できないポイントです。

カートでの入力項目が多く、手間がかかる

ユーザーにとって、ECサイトでの購入体験において、入力のしやすさは大切なポイントです。商品を選び終え、いざ購入手続きに進もうとした際に入力項目が多すぎると、それだけで購買意欲が削がれてしまうこともあります。

ヨドバシのカート画面には、やや改善の余地があると感じられる部分も存在します。

たとえば、

  • 苗字と名前をそれぞれ別々に入力しなければならない。
  • フリガナの入力が求められる。
  • 電話番号をハイフン付きで3項目に分けて入力する必要がある。

など、細かな入力ステップが多く、ユーザーにとっては負担になりがちです。

さらに、性別の選択肢が、男性・女性の2択のみで、他の選択肢が用意されておらず、近年の多様なユーザー層に対して配慮が足りない印象を受けることも。性別と生年月日の入力が必須となっており、「これって本当に必要なの?」という違和感を受け取られかねません。

これらの要素は、いずれも明確なダークパターンには該当しませんが、結果的にユーザーの行動を妨げ、離脱の一因となる可能性がある設計といえます。

その点、Amazonでは、最小限の手間で商品を購入できる導線が整えられています。こうしたスムーズな購入体験は、再訪率やリピート購入にも直結する要素といえるでしょう。

ヨドバシにおいても、既存の誠実な設計をベースに、入力項目の統合や省略の工夫ユーザー層に配慮した設計改善を加えていくことで、さらに多くのユーザーにとって、使いやすいと感じられるカート画面へと進化させていけるはずです。

再購入や比較がしづらい、惜しい動線設計

ECサイトにおける継続的な利用には、初回購入のしやすさだけでなく、リピートのしやすさや商品比較のスムーズさが求められます。過去に購入した商品を見返したり、類似商品を比較検討したりできる導線が整っているかどうかは、ユーザー体験を大きく左右します。

ヨドバシでは、注文履歴から商品名を検索する機能が用意されておらず、過去に購入した商品を探す際に時間がかかることがあります。また、商品ページから関連商品への導線が弱く、比較検討をしたいユーザーにとっては、選択肢を広げにくいという声もあります。

 

このような設計はダークパターンには該当しないものの、ユーザーの次の行動を妨げる要因となり得ます。特に、迷いが生じる場面が積み重なると、サイト離脱の引き金にもなりかねません。

Amazonでは、注文履歴の検索性が高く、過去の購入商品を簡単に見つけられる設計がされています。また、閲覧履歴やおすすめ機能の精度も高く、ユーザーが自然と次の行動に進みやすい工夫が随所に見られます。

ヨドバシも、ユーザーの判断を尊重する誠実な設計をベースに、次の購入をスムーズにサポートする動線設計をさらに強化することで、より長く支持されるECサイトとして進化できるはずです。

3. ダークパターンに頼らず、ユーザーから選ばれるサイト設計とは?

ユーザーの迷いを防ぐことが信頼につながる

ECサイトを運営していると、売上を少しでも伸ばすために、ユーザーの行動をコントロールしたくなる場面も少なくありません。定期購入を勧める、価格を控えめに見せる、登録を促すなど、いずれも一見すると効果的に見える設計ですが、過度に行うことで、ダークパターンと呼ばれる領域に踏み込んでしまう可能性があります。

たしかに、ユーザーが気づかないうちに選択を促す仕組みは、一時的な成果にはつながるかもしれません。しかし、選ばされたという感覚は、あとになって疑問や不信感へと変わります。意図しない定期購入、見えづらい価格、登録の強制。こうした要素が積み重なることで、サイト全体への信頼を損なってしまうこともあるのです。

一方、これまで見てきたように、ヨドバシはシンプルで分かりやすい導線を採用し、ユーザーが自分で選んだと感じられる設計を徹底しています。定期便や会員登録を強制せず、価格表示も視覚的に明瞭。このような迷わせない工夫が、10年連続の顧客満足度No.1という結果にもつながっているのではないでしょうか。

ヨドバシの事例から学べるのは、「買わせる」ための小手先のテクニックよりも、「また使いたい」と思われる設計こそが、長期的な信頼と選ばれる理由になるということです。

信頼を築く体験設計へとシフトしていくために

中小企業がAmazonのような大手ECサイトと競争していく上で、広告費をかけ続けて集客する戦略は、現実的に限界があります。だからこそ、一度訪れたユーザーに「また使いたい」と思ってもらえる設計、つまりリピートを生み出す信頼の構築が重要になります。

信頼を得ることで、ユーザーの再訪や自然な口コミによる新規獲得が期待でき、結果として安定した売上にもつながります。これは単なる理想論ではなく、費用対効果を考慮した実践的な選択でもあります。

たとえばヨドバシのように、ユーザーの選択を尊重する導線や、明快な価格表示を整えることは、誰もがすぐに取り組める第一歩です。また、Amazonが提供するレビューの充実や関連商品の表示のような便利な仕組みも、ユーザーの満足度を高める参考例として活用できます。

ダークパターンに対する法的規制や社会的な注目も年々高まっています。今のうちから誠実な設計に取り組むことで、将来のリスクを回避しつつ、ブランドとしての信頼性を強化することができます。

これからの時代、ユーザーに選ばれるECサイトとは、売上ではなく「信頼」を出発点とするサイトです。脱ダークパターンという選択は、その第一歩。

いま設計を見直すことが、未来の「指名買い」につながるはずです。

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