欺瞞を乗り越える:ダークパターンとインドの消費者行動への影響

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写真左からKratvi Kawdia、Sidhant Goel

Kratvi KawdiaはSim And Sanのアソシエイトであり、インド弁護士会に所属している弁護士です。仲裁に強い関心を持つ彼女は、事務所の仲裁案件に積極的に取り組んでいます。定期的に上級の同僚の草案作成や調査業務をサポートし、さらに、事務所内のその他の商事・民事訴訟案件にも関与しています。

Sidhant GoelはSim And Sanのパートナーであり弁護士です。特許審査と紛争解決の専門家で、インドの大手企業の仲裁や国際訴訟を主導しています。特許法に精通し、米欧の知財法を活かした戦略を構築しています。現在、標準必須特許訴訟や高額特許訴訟を担当し、無効審判や米国PTAB訴訟にも実績がある人物です。

この記事はNavigating Deception: Dark Patterns and its influence on Indian consumer behaviourの翻訳転載です。著者のKratvi Kawdiaさんの許可を得て公開しています。

本記事では、eコマース大手やその他のオンラインプラットフォームが、消費者行動を操作するために広く使用しているダークパターンについて説明します。

テクノロジーの進歩により、市場の基本原理が大きく変わりました。多くのデジタルプラットフォームは、無料でデジタルサービスを提供することで、消費者の選択を操作し、意図的に誤った情報を提示しています。これらのデジタルプラットフォームは、消費者をターゲットにしたマーケティング戦略を用い、消費者の意思決定に影響を与え、意図しない購入やデータの過剰消費を引き起こします。消費者の心に偏見を生じさせ、本来の意思とは異なる決定を強いるこうしたマーケティング戦略は「ダークパターン」と呼ばれます。

「ダークパターン」という用語は、「ダークパターンの防止および規制に関するガイドライン 2023」(以下「ガイドライン」)で定義されています。ガイドラインの第2条1項(e) では、ダークパターンを「ユーザーを誤解させたり、欺いたりして、本来意図していなかったことや望んでいなかったことを行わせるために設計された、プラットフォーム上のUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の操作を用いた手法または欺瞞的なデザインパターン」と定めています。

インド広告基準協議会(ASCI)も、インド市場におけるダークパターンの特定に大きな役割を果たしています。ASCIの調査レポートによると、インドのトップ53のアプリケーション/プラットフォームのうち52が、ダークパターンを使用してユーザーを欺いていることが判明しました。これは、誤解を招く広告や不公正な取引によって行われ、消費者の権利を侵害しています。

ガイドラインの適用範囲

ガイドラインの第3条に従い、(i) インドで体系的に商品やサービスを提供しているプラットフォーム、(ii) 広告主、(iii) 販売者は、すべて本ガイドラインの適用対象となります。さらに、ガイドラインに違反した場合は、2019年消費者保護法の規定が適用されます。ガイドラインを遵守しなかった場合、罰金または懲役刑が科せられる可能性があります。

ダークパターンの種類

ガイドラインでは、以下の合計13種類のダークパターンがリストアップされています。

  • 偽の緊急性
  • こっそりカゴに入れる
  • 羞恥心の植え付け
  • 強制的なアクション
  • サブスクリプショントラップ
  • インターフェース干渉
  • おとり商法
  • ドリップ価格設定
  • 偽装広告
  • しつこい勧誘
  • ひっかけ質問
  • SaaS請求
  • 不正マルウェア

さらに、中央消費者保護当局が随時指定するダークパターンに応じて、このリストが拡大される可能性があります。

ダークパターンと消費者の選択の交差点

ダークパターンは、操作的な戦術を用いて人間の心理を巧みに操る傾向にあります。たとえば、「偽の緊急性」では、アプリやプラットフォームが「残り3個」「セール終了まであと2時間」「40人がこの商品を閲覧中」といった表示を出すことで、消費者に購入を急がせます。

別の例として「こっそりカゴに入れる」があります。これは、アプリが寄付や慈善活動への支払いオプションを事前に選択した状態にする手法です。

また、サブスクリプションや料金をキャンセルしようとすると、一部のアプリでは「今はやめておく」「旅行の保険を適用しない」といった選択肢が表示され、「いいえ」とシンプルに選択できないようになっています。これは「羞恥心の植え付け」と呼ばれる手法です。

すべてのアクティブユーザーは、日常的にこれらのアプリの欺瞞的な戦術に直面しています。理解を深めるために、架空の名前「Rahul」を使った具体例を見てみましょう。

Rahulがオンラインショッピング用のアプリをダウンロードし、サインインすると、「今すぐ申請」「急いで」「最後のチャンス」「オファーはあと30分で終了」といった通知がスマートフォンの画面に次々と表示されます(偽の緊急性としつこい勧誘)。中には「×」ボタンがなく、簡単には消せない通知もありました。これらの通知を閉じるには、Rahulがわざわざ通知を開き、アプリ自体を閉じなければなりませんでした(おとり商法)。Rahulが支払い画面に進むと、メンバーシップ、チャリティー、保険のチェックボックスがすでに選択されていることに気付きます(こっそりカゴに入れる)。Rahulが保険のチェックを外すと、「本当に製品を危険にさらしてもよろしいですか?」というポップアップ通知が表示されました(羞恥心の植え付け)。

偽の緊急性の例(明日が締め切り 大好きなブランドを50~90%オフで手に入れられる最後のチャンスです)

このようなユーザーインターフェースは、消費者を操作し、不要な購入を即座に決断させることで、衝動的かつ軽率な選択を促します。誤解を招く広告や製品の表示方法によって、消費者の自主性は損なわれます。

おとり商法の例(試合を生で見ましょう!お見逃しなく!キャッシュバックポイントを使ってDisney+ Hotstarと15のOTTを99ルピーでゲットしよう!急いで!今すぐお申し込みください!)

ダークパターンと不公正な取引慣行の交差点

ダークパターンは、消費者の選択を妨げるだけでなく、公正な市場の在り方にも悪影響を及ぼします。消費者が特定のアプリを使用することを強制されることで、市場では反競争的な慣行が生まれます。あるサービスの退会を困難にすることで、消費者は意図せず長期間そのアプリを使い続けることになります。

一部のプラットフォームでは、ユーザーの同意なしに自動支払いオプションが事前に選択されており、定期的に消費者の銀行口座から金額が引き落とされる仕組みになっています。このように、利用者が気づかないうちに自動課金を有効化し、それを解除することを困難にすることで、消費者は意図せずそのプラットフォームを利用し続けることになります。この操作は、公正で効果的な競争を妨げ、消費者の全体的な利益を損なうものです。

さらに、ガイドラインに基づき、州消費者紛争処理委員会は「Ashwini Chawla 対 Flipkartの裁判」において、Flipkartが魅力的なオンライン広告や「新品を直接配送する」といった明確な保証を提供することで、不公正な取引慣行を行い、ダークパターンを使用していたと認定しました。

また、ある消費者が「Marc Jacobs」の靴下を検索したところ、「Marc Cotton Ankle Unisex Socks」という別のブランドの商品を購入してしまった事例について、州消費者紛争処理委員会は「Jatin Bansal 対 M/S Amazon Reseller Services Pvt. Ltd.の裁判」において、AmazonがMarc Jacobsの検索結果の下に虚偽の商品を表示し、消費者を誤解させたことが、意図的かつ大胆にダークパターンに関与したものであると認定しました。

さらに、多くのケースでは、ある特定の商品やサービスを検索すると、検索エンジンは実際の検索結果を表示する前に、スポンサー広告を優先して表示します。これらの手法もダークパターンの一種です。実際の製品やサービスよりも先に広告を表示することで、消費者を誤解させ、誤った選択をさせる意図があります。

たとえば、Amazonで「Zara シャツ」と検索すると、最初に表示されるのは別のブランドのスポンサー広告です。ある企業の商品を別の企業のブランド名で掲載することで、これらのeコマースプラットフォームは不公正な取引慣行を助長しています。これは、公正な競争とは到底言えません。

Amazonの不公正な取引慣行(Zara シャツと検索しているが、別のブランドのスポンサー広告が最初に表示されている)

ダークパターンと知的財産権の交差点

著名人の声や画像が、本人の同意なく、まるでその人が商品を宣伝しているかのように使用された場合、デリー高等裁判所は「Anil Kapoor 対 Simply Life India & Ors.の裁判」において、「著名人の声や画像を本人の許可なく使用することは、人格権の侵害にあたる」と指摘しました。また、消費者を誤解させ、欺き、意思決定能力を損なわせる行為は、ダークパターンに該当すると述べられています。こうした行為によって、eコマースプラットフォームは個人の権利を侵害するだけでなく、ダークパターンを通じて消費者を欺いているのです。

また、「ダークパターン」の定義を踏まえると、競合他社が商標を入札することや、検索エンジンでライバル企業の商標に入札し、検索結果に競合他社のスポンサー広告を表示することも、ダークパターンの一例とみなされる可能性があります。現在、1999年商標法第29条に基づき、競合他社やプラットフォーム所有者を商標侵害で訴えた裁判が複数進行中です。これらの裁判で、商標所有者がスポンサー広告をダークパターンとして主張するのかどうかは、今後注目されるポイントです。

提案と結論

ダークパターンは、今日のeコマース業界において深刻な問題となっており、個人、企業、市場に悪影響を与えています。現在求められているのは、これらのダークパターンを適切に規制することです。2023年にガイドラインが施行されたにもかかわらず、ダークパターンの使用はいまだに減少していません。インド市場では、広告とプラットフォームのユーザーインターフェースを規制するための厳格な法律が必要です。プラットフォームはガイドラインを厳格に遵守するべきであり、消費者がより簡単にアプリケーションを利用できる仕組みを導入する必要があります。

インドをはじめとする各国の規制当局がダークパターンの規制に向けて動き出している今、eコマース事業者は、消費者保護、不公正な取引慣行、知的財産権の侵害に対してより注意を払うべき時期に来ています。ガイドラインが施行されていることを踏まえ、eコマース事業者は、公正で最適なビジネス慣行を実施し、是正措置を講じることで、消費者の選択と健全な競争を守ることを誓うべきです。

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