ディセプティブパターンとは、ユーザーの利益にならない行動を取らせるデザインのことです。コンバージョンを高めるのに驚異的な効果があるため、ウェブ上では多用されています。しかし、その使用は非倫理的であり、法的にも問題があります。
この記事では、ディセプティブパターンがどのように現れるのかを解説し、あなたのデザインでそれらをどう見つけるかについて説明します。
目次
ディセプティブ(欺瞞的)パターンとは何か?
ディセプティブパターンは、金銭的損失、プライバシーの喪失、法的支配を引き起こすことによって、ユーザーに損害を与えます。さらに、ディセプティブパターンは、時間に余裕のないユーザーや、パソコンやインターネットの使い方にあまり慣れていないユーザーなど、弱い立場のユーザーに成功しやすく、この行為をより一層問題のあるものにしています。デザイナーはディセプティブパターンの使用を避け、それに積極的に反対すべきです。
起源と進化
ディセプティブパターン(時には「ダークパターン」とも呼ばれる)という概念は、2010年にハリー・ブリヌルによって提唱されました。この名称は、「デザインパターン」という用語をもじったもので、「デザインパターン」とは、特定のコンポーネントや体験に関する一般的なユーザーインターフェースデザインを指します。
スラッジはディセプティブパターンに関連する概念です。
リチャード・セイラーとキャス・サンスティーンは、スラッジを「選択の仕組みにおいて、摩擦が生じ、人々が自分にとって良い結果(自分の価値観に基づいて)を得るのを難しくするような側面」と定義しています。一部のディセプティブパターンはスラッジに該当します。たとえば、ターゲティングやマーケティング用クッキーを拒否するために、ユーザーが何度も画面をクリックしなければならないようなクッキー同意のダイアログは、スラッジの一例です。ただし、ディセプティブパターンには、欺瞞、トリック、感情の操作、摩擦が含まれることがあります。
ディセプティブパターンは、ウェブやデジタルデザインにおいて広く見られます。2019年にプリンストン大学とシカゴ大学の研究者が行った調査では、ウェブ上の人気のある11,000のeコマースサイトのサンプルのうち、10%以上に欺瞞的なデザインパターンが存在することが確認されました。また、2019年にチューリッヒ大学の研究者が行った別の調査では、Google Playストアからサンプリングした無料かつトレンド入りしている240のアプリのうち、95%にディセプティブパターンが含まれていることが判明しました。さらに、これらのアプリの半数以上では、平均7つのディセプティブパターンが見られました。
ディセプティブパターンが広まっている背景には、2つのよく見られる現象が影響しています:
- A/Bテストとコンバージョンを促進することへの注目: コンバージョンを最適化するためのA/Bテストや多変量テストの人気の高まりは、欺瞞的なデザインパターンの使用を増加させました。
- コピーキャットデザイン: 多くの企業が競合他社のデザインを模倣しています。このような行為は、デザインパターンの確立や標準化に貢献してきましたが、同時に欺瞞的なデザインパターンの広まりや、それが正当と見なされる状況を生み出しています。
ディセプティブパターンの例
ディセプティブパターンには多くの種類があり、UX実践者、学者、法律の専門家がディセプティブパターンの分類について膨大な文献を残しています。ディセプティブパターン(そして異なる呼称)は、この記事で紹介しきれないほどたくさんあるので、以下にいくつかの顕著な例を挙げます。
- 妨害:ユーザーが企業にとって利益にならない選択をしづらくすることで、例えば、関連する情報や機能を見つけるための手間を増やすことが挙げられます。例えば、アメリカ合衆国連邦取引委員会は、顧客がAmazonのプライム会員をオンラインで解約しようとした際に、Amazonが妨害を使ったことを理由に訴訟を起こしました。
- 視覚的な、あるいは言葉によるトリック: 人間の認知の限界を利用したり、認知バイアスを利用したり、一般的でよく使われるデザインパターンを壊してユーザーの期待を裏切ることです。例えば、質問や回答の選択肢に誤解を招くような表現を使ったり (二重否定の使用など)、モーダルウィンドウの「閉じる」ボタンを意図的に遠くに移動させることなどがあります。
- しつこい要求: ユーザーがすでに同意しなかったことに対して、何度も繰り返し同意を求めることです。例えば、モバイルアプリの権限リクエストが繰り返し表示されると、ユーザーはその要求を拒否するのが面倒になり、最終的にあきらめて同意してしまうことがあります。
- 感情を操作するデザイン: ユーザーを怖がらせたり、罪悪感を与えたり、恥ずかしい思いをさせたりして、企業にとって有利な選択をさせるデザインのことです。例えば、多くのeコマースサイトでは、ユーザーにメールアドレスを提供させて割引コードを渡すためにモーダルダイアログを使用します。このデザインが感情的な操作を伴うものになるのは、「いいえ、結構です、お金を節約するのが嫌いです」といった拒否リンクが表示される場合です。(これはマニピュリンクの一例で、この行為は「コンファームシェイミング(羞恥心の植え付け)」として知られています。)
- こっそり追加または事前選択: 購入の過程で、余分なアイテムが自動的にカートに追加されたり、必要のないオプションが事前に選択されたりすることです。この場合、ユーザーは追加されたオプションを見つけ出し、それを削除したり、チェックを外したりする必要があります。
多くのディセプティブパターンは、現在、さまざまな消費者保護法やデータ保護法の下で違法とされています。例えば、ユーザーの明示的な同意なしにデータを処理することは、EUの一般データ保護規則(GDPR)に違反します。幸いなことに、政府や規制当局は欺瞞的な行為に対して追いつき、特定の行為を違法にしています。
何がディセプティブパターンを作り出すのか?
時々、デザイナーは説得力のあるデザインと欺瞞的なデザインを区別するのに苦労することがあります。例えば、LinkedIn Premiumのサインアップページを考えてみましょう。そのデザインは、(サービスを利用しているユーザーのつながりを強調することで)社会的証明を利用しています。また、アンカリングの認知バイアスを利用しています(1か月の無料トライアルを強調するための取り消し線のついた価格設定)。もしコンテンツが正確であり、捏造されていないのであれば、このデザインは説得力のあるもので、欺瞞的なものではありません。
Booking.comは、ホテル写真の上に表示される注目のレビューを通じて社会的証明を、予約可能な残りの部屋数を表示させ希少性を利用しています。もしホテルの残り部屋数やレビューが本物であり、会社が不正な商習慣(部屋の空き状況をブロック単位で公開したり、肯定的なレビューのために人々にお金を払ったりなど)を採用していないのであれば、このデザインは欺瞞的ではなく、説得力のあるものです(一部のユーザーには「営業的」と感じられるかもしれませんが)。
Booking.comのデザインをさらに見てみると、欺瞞的な要素が関わっているように思えます。ページの上部にある肯定的なレビューのカルーセルは完結しているようで、クリックできません。もしユーザーが「ジェニファーのレビューをもっと読みたい。」と思った場合、レビューセクションまでスクロールしなければならないようになっています。ジェニファーのレビューは「See what guests loved the most(ゲストが最も気に入ったもの)」というセクションの下に表示され、そこには「Read more(続きを読む)」リンクがあります。「Read more」を押すことで、良いレビューの続きが読めると思わせますが、実際に隠れているのは良いレビューではなく、Booking.comが簡単には見せたくない否定的なコメントが表示されるようになっています。
Booking.comが、予約を促すためにウェブサイトをこのようなデザインにしたのが意図的かどうかはわかりません。顧客のフィードバックはホテルでの滞在の「良かったところ」と「悪かったところ」別々に報告するようになっているのです。このデザインが意図的かどうかに関わらず、軽度の欺瞞が働いています。この軽度の欺瞞は、希少性や可用性バイアス(良いレビューが簡単に見られること)と組み合わさり、時間に追われているユーザーが慎重に考えることなく予約をしてしまう結果を生み出します。まさに、ビジネスがユーザーにしてほしい行動です。
上記の例では、ユーザーが何を期待しているのか、デザインがどのように機能するのかを注意深く検討した後で初めて、欺瞞が明らかになりました。欺瞞的なデザインの中には、すぐに見破ることが難しいものもあります。識別し防止するためには、意図的に考え疑問を持つことが必要です。
ディセプティブパターンを避ける方法
デザインを定期的にユーザーとテストすることで、明らかな問題や強いディセプティブパターンを特定するのに役立ちます。研究者たちは、明らかなディセプティブパターンがユーザーから怒りや不快感を引き起こすことが多いと発見しました。もしデザインに明らかなディセプティブパターンを使用している場合、ユーザビリティテストの参加者から、その点についてフィードバックをもらうことが多いでしょう。しかし、研究者のジェイミー・ルグリとリオール・ストラヒレヴィッツが発見したように、軽度のディセプティブパターンは気づかれないことが多いため、ユーザーに指摘されるのを待っていては遅いです。この効果は、特に教育レベルの低いユーザーに顕著です。
私たちは、自分たちのデザインが倫理的であることを確認するために慎重に検討する必要があります。そのための体系的な方法の1つが、修正された認知ウォークスルーを実施することです。デザインを見直しながら、次のような質問を自分に問いかけてみてください:
- ユーザーが意図したり必要としたりした以上にお金を使ったり、データを提供したりする可能性はありますか?
- ユーザーがある機能、製品、または体験と引き換えに何かに同意する場合、その交換は公平で適切ですか?
- 各選択肢の情報は事実に基づいて正確ですか?
- ユーザーが選択肢(または選択肢の有無)を簡単に誤解してしまう可能性はありますか?
- インターフェース上で、別の選択肢を見逃す可能性はありますか(例えば、その選択肢が隠されていたり、ユーザーが予想しない場所にある場合など)?
- ユーザーが選択をする際に役立つ重要な情報を見逃す可能性はありますか?
- ユーザーは、選択肢に関するすべての情報に迅速にアクセスできますか?
- ユーザーが選びたい選択肢をすぐに実行できますか(それとも、多くの不要な手順が妨げていますか)?
- ユーザーは決定を急かされることがありますか?
- ユーザーが選択をする際、不公平に圧力をかけられたり、感情的に操作されたりしていますか?
- 選択を断る際に、ユーザーが恥ずかしい、緊張する、または罪悪感を抱く可能性はありますか?
共感を生み出し、チームにユーザー中心の考え方を取り入れてもらうために、最も弱い立場にいるユーザーのペルソナに基づいてこれらの質問を考えるようにしましょう。
結論
UXの専門家として、私たちの役割は、雇用主である企業のニーズとユーザーの利益の両方をうまく調整することです。デザイナーは、欺瞞的なパターンが提案されたり実装されたりしたときにはそれを指摘し、企業とユーザーの目標達成を支援する、より公正で倫理的な方法を模索するべきです。
参考文献
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