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ダークパターン「価格比較の阻止」とは?
ユーザーエクスペリエンスの専門家であるハリー・ブリヌルは、2010年に「ダークパターン」という言葉を作りました。ダークパターンとは、ユーザーに意図しない、あるいは潜在的に有害な決定をさせることを強要したり、誘導したり、欺いたりすることで、オンラインサービスに利益をもたらすユーザーインターフェース(UI)やデザインのことです。ハリー・ブリヌルは、ダークパターンの認知度を高めるために、ダークパターンを12種類に分類したサイト「darkpatterns.org」を運営しています。
この記事では、その中の1つである価格比較の阻止について説明します。
ブリヌル氏は、価格比較の阻止を下記のように定義しております。
The retailer makes it hard for you to compare the price of an item with another item, so you cannot make an informed decision.
商品の価格を他の商品と比較することを困難にし、十分な情報に基づいた決断をできないようにすること。
引用元:darkpattern.org
商品の販売単位が異なるため、どれが一番お得なのか判断できない
「価格比較の阻止」は欺瞞的なダークパターンです。「価格比較の阻止」の多くはグレーゾーンですが、さらに販売価格の安さを強調するために用いられた比較対照価格の内容について適正な表示が行われていないような悪質な場合は、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあります。
よく見かける「価格比較の阻止」のダークパターンは、商品間での価格比較を困難にしています。ベースとなる単位が異なることで料金の比較を難しくしていているような場合が該当します。
下記の場合、左側のバナナ(バラ)は1kgあたりの値段(バナナを本数で購入しようとしてもkg表示)、そして右側のバナナ(5本1パック)は1パックの値段とバナナ1本あたりの値段が表示されています。販売単位が異なるので、結局1本あたりどちらのバナナが安いか買い物かごに入れるまでわかりません。
小売業者がアイテム価格を比較させない理由
企業がこの「価格比較の阻止」のダークパターンを使うのはなぜでしょうか?理由は下記が挙げられます。
- 競合サイトの方が安く販売しているため、単位を変えて、比較されにくくしたい。
- 2つのうち、どちらかが不当に高い商品(高利益商品)になっている。
- バンドル販売(セット売り)の手法を使って、比較されにくくする(実際はあまりお得ではない)
- 値上げした(あるいは内容量が減った)新パッケージ商品を売り出すときに、在庫の旧パッケージと比較されないように単位をうやむやにする(製造会社側)。
どれが一番お得なのか比較できないというのは、スーパーマーケットではよくある話かもしれません。
Paper towel companies have decided that buying their product should be a course in applied advanced mathematics.
This is what Price Comparison Prevention looks like in the wild.
ペーパータオル会社は、自社製品の購入には、応用高等数学を学ぶべきと決定しました。
これが「価格比較阻止」の実態です。
消費者に誤認を与える場合、不当表示に該当するおそれも
不当な価格表示についての景品表示法上の考え方について、消費者庁は下記のように説明しています。
不当表示のおそれ①:同一ではない商品の価格を比較対照にする
同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
- 同一ではない商品の価格との二重価格表示が行われる場合には、販売価格と比較対照価格との価格差については、商品の品質等の違いも反映されているため、 二重価格表示で示された価格差のみをもって販売価格の安さを評価することが 難しく、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
なお、同一ではない商品との二重価格表示であっても、一の事業者が実際に販売している二つの異なる商品について現在の販売価格を比較することは、通常、 景品表示法上問題となるものではない。 - 商品の同一性は、銘柄、品質、規格等からみて同一とみられるか否かにより判断される。
なお、衣料品等のように色やサイズの違いがあっても同一の価格で販売されるような商品については、同一の商品に該当すると考えられる。
また、ある一つの商品の新品と中古品、汚れ物、キズ物、旧型又は旧式の物とは、同一の商品とは考えられない。 - 野菜、鮮魚等の生鮮食料品については、一般的には、商品の同一性を判断する ことが難しいと考えられる。
このため、生鮮食料品を対象とする二重価格表示については、タイムサービスのように商品の同一性が明 らかな場合や、一般消費者が商品の同一性を判断することが可能な場合を除き、 一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
不当表示のおそれ②:虚偽の情報を比較対象にした「二重価格表示」
比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
- 二重価格表示が行われる場合には、比較対照価格として、過去の販売価格、希望小売価格、競争事業者の販売価格等多様なものが用いられている。
これらの比較対照価格については、事実に基づいて表示する必要があり、比較対照価格に用いる価格が虚偽のものである場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。 - 過去の販売価格や競争事業者の販売価格等でそれ自体は根拠のある価格を 比較対照価格に用いる場合でも、当該価格がどのような内容の価格であるかを正確 に表示する必要があり、比較対照価格に用いる価格についてあいまいな表示を行う 場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
引用元:不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(消費者庁)
わかりやすい価格表示で消費者の迷いをなくす
価格表示は、消費者が商品やサービスを選択する際の最も重要な情報の一つです。そのため、価格が適切に表示されていないと、消費者を惑わせて間違った選択をさせてしまうことになります。消費者が「欺瞞的なデザイン」に惑わされないように、価格は明確で分かりやすいものにしましょう。
消費者の利益を考えた価格表示を行うべき理由
- 商品を購入する際、複数のサイトを比較する人は54.6%
- 故意に迷わせることは、頭を使わせ、決断疲れを引き起こす
- 決断疲れは行動を先延ばしする原因(サイト離脱)になる。⇨ビジネスにとってもマイナス
- 迷わせて買わせることで、あとからクレームの原因にも。(対応コストの発生)
事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは、事業者の事業 活動において最も基本的な事項ではありますが、「価格比較の阻止」を行うと、ユーザーは十分な情報を得られないままに購入の決断を行うことになります。
このような観点から、不当景品類及び不当表示防止法は、事業者の販売価格について一般消費者に実際のもの又は競争事業者に係るものよりも 著しく有利であると誤認される表示を不当表示として規制しています。
消費者の利益を考えた分かりやすい価格表示が、結果として後の事業者の利益となるのです。
参考:消費者庁 二重価格表示
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